Artemis at Unit

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  • 国内のテクノ・ミニマルのシーンは携わる人々のストイックさ、実直さゆえか、パーティーの雰囲気や楽曲のサウンドにもどこか固い雰囲気を感じることがある。もちろん大切な心がけではあるが、それを踏まえた上で何よりも快楽性を追求するパーティーはそう多くはない。その一つと言えるのが、これまでworkshopで知られるLowtec、カナダのMUTEK主催Vincent Lemieux、Hello? Repeat主催のJan Kruegerなどの強者アクトを招致してきたARTEMISだ。 今回のゲストはミニマルハウスのレベルを引き上げた重要レーベルPerlonをZipらと共に主宰し、現在は新たな才能に光を当てるべくUltrastretchを運営するSammy Dee。80年代からベルリンの主要なクラブでレジデントを務めてきたベテランDJのSammyは、現在も前述のZipと共にPanorama Barで開催するGet Perlonizedをオーガナイズしながら、世界各国を巡っている。中でも日本はお気に入りの国の一つらしく、ここ数年で幾度となく来日しているが、UNITへの出演は08年、田中フミヤ主催のCHAOS以来となる。 メインフロアの一番手はARTEMISクルーのYasu。Baby Fordや初期SVEKの削ぎ落とされたミニマルな展開から始まり、後半になるにつれベースを軸とした走り目のグルーヴにシフト。UNITのパンチのあるサウンドシステムも相まって、音数を絞っても十二分に踊れるインパクトがある。サブフロアのSaloonでは若手注目株Len Tajimaによる疾走感あるミニマル・ディープハウスセットでスタート。続くHow High主催のRyokeiは近年の欧州シーンを意識したようなエレクトロ、ブレイクビーツ色の強いトラックを展開。やや性急ながらもメインとは違った展開で勢いをつけていく。流れに変化をつけたのはBeat In Me主催のRahaによる低空飛行めなミニマルハウスセット。ダビーなトラックに始まり、徐々にリフトアップする展開でSaloonの雰囲気を刷新した。 集客のピークとなった時間帯での登場となったSammy Deeは、ラフなミックスながら癖の強い展開のミニマルでどんどん自らの世界を形作っていく。シカゴ風味なアシッドハウスを交えた中盤からはさらに集中力を研ぎ澄まし、BPMを増しつつも色気のある重いグルーヴのうねりでフロアを掴んでいた。低音のぶれが一切感じられないコントロール力がもたらす、比類なき安定感はベテランならではの技と言えるだろう。続くP-YanはSammyのセットで加速したハウスグルーヴを保ちつつ、展開に縛られすぎない、ブレイクやシンプルなフレーズで彩りを加えるようなDJを披露。Maayan NidamのPerlonからのリリース曲も交えながら、勢いを保ったストレートな流れでメインを締めくくった。 Saloonにてパーティーの〆を担うのは、ベルリンからの帰国後も海外ポッドキャストへの提供や国内各地でのDJで精力的に活躍するShake M。洗練されたミニマル・テックハウス全盛期のサウンドを思い起こさせるようなトラックを中心に、時間の感覚が失われる終盤で長く踊れるグルーヴを創っていく。メインの客層もまだまだ終われないとばかりに流れ込んでからは、規模は違えど第二のピークともいえる熱気が感じられた。それに応えるようにSammy Dee、Yasu、P-YanもB2Bで参戦し、ひとり一人の個性が込められたトラックを投下していく。なかでも最終盤のYasuによるTelex "Raised By Snakes (Shake Remix)"の鞭打つようなエレクトロビートはひときわ印象に残るものであった。 サウンドの中核を担っていたのは最小限の装飾をまとったミニマルだが、各アクトと集まる人々によって、フリーキーでシリアスになり過ぎない奔放な雰囲気をつくりあげていた。Perlonの中心人物として、黎明期のミニマルハウスに鮮やかなユーモアを与えたSammy Deeは、醸し出すムードやサウンドもコンセプトにぴったりの人選と言えるだろう。 長尺なパーティーは諸刃の剣。ときに開催者・アクトの独りよがりで冗長なものになりかねないが、ARTEMISはUNITのサウンドと出演陣の組み合わせを模索し、瞬く間に時が過ぎ去るような一夜を創りあげてくれた。
RA