Skee Mask - Shred

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  • ブレイクビーツというものは取り扱いが難しい。ダンスミュージックにおいて非常に伝統的で一般的な手法であり、その歴史は80年代にまで遡るため、ブレイクビーツを独自のものにするのは難しいのだ。過ぎ去った時代を引き合いに出さなければ、ブレイクビーツと聞いて思い浮かぶトラックやアーティストは限られるだろう。近年、ブレイクビーツを新鮮に鳴らしている数少ないアーティストのひとりがShedだ。彼はバウンシーな感覚と弾力性を強調したブレイクビーツに鮮烈なパッドを浴びせている。同じ意識を持って後追いしたプロデューサーたちは彼と比較されることが多い。ミュンヘンのIlian Tapeも、ブレイクビーツの勝手を知る少数のアーティストたちを従えた重要レーベルであり続けている。その中でStenny、Andrea、Skee Maskによるレコードは非常に印象的だった。そして、Skee Maskはファーストアルバム『Shred』においてIlian Tapeの秘密兵器的存在から一躍スターアーティストへと成長している。 『Shred』では前2作品におけるスペーシーな要素の全貌が明かされている。アルバムは念入りにアレンジされており、Skee Maskは忙しなく素材を詰め込んだりせず、空間の余地を存分に活かしている。"Everest"にて彼は5分間の歓迎的なアンビエンスによってじっくりとアルバムの世界に入っていき、"HAL Conv"で苔に覆われたようなじっとりとしたドラムを打ち鳴らし始める。主張力のあるキックパターンがようやく現れる"Autotuned"はShackletonのグルーヴのようにトライバルで荒々しい。"Autotuned"は『Shred』でクラブらしさを感じさせる最初のトラックだが、弾力性のあるドラムサウンドが重々しいビートの衝撃を吸収しており、真っ向からフロア仕様のアプローチが取られているわけではない。 このトラック以降、Skee Maskは思い浮べることのできるブレイクビーツ主導のムードとアイデアをすべて試しており、"Shady Jibbin"は機敏に、"Backcountry"はタイトに、"Zenker Haze Trak"はサイケデリックに仕上がっている。どのトラックにも意識を惹き付けるシンセアレンジが施されており、削り出した霧のように聞こえるほど軽やかでふわふわとしている。"Zenker Haze Trak"などの柔らかなトラックで強調されているのは、Skee Maskが他とは一線を画している理由のひとつである肉体的な勢いではなく、バレエダンサーのようにピルエットするブレイクビーツの動きだ。Skee Maskが本作で行おうとしているのは、ブレイクビーツをどこまで小節の隅々にまで奇妙に当てはめられるのか、ということだ。本作一番の目玉であり、最も懐古的なトラックである"Melczop 2"でさえ、比較不可能な軽やな感覚がある。 "Melczop 2"では、新たな場所を常に巡っているような息をつかせぬ興奮も味わえる。『Shred』にはそのように、ある地点から出発して、最終的に全く異なる場所に辿り着くトラックが多く収録されている。"Shred 08"を例に挙げるならば、ゆっくりと動く分厚いブレイクビーツによってNinja Tune作品のようにスタートするトラックは、柔らかなパッドや恍惚のシンセの中を滑走していき、骨格だけのビートに舞い戻る。突如、鮮烈な白昼夢の中に滑り込んで出てくるような印象だ。 『Shred』は単なるトラックのコンパイルではなく、ひとつのアルバム作品として構想されていたのではないだろうか。入念な曲順によって、90年代のプログレ、80年代のチョップアップ、幻想的なIDM、Shedスタイルのアレンジを通じて緩やかな起伏が描かれる。魅惑のメロディ、豊かなムード、そして、ブレイクビーツとドラムプログラミングの卓越した手法により、『Shred』はテクノがダンスフロアにおける機能性だけでなくソングライティングにもなり得ることを証明している。
  • Tracklist
      01. Everest 02. HAL Conv. 03. Autotuned 04. Shred 08 05. Backcountry 06. Melczop 2 07. Zenker Haze Trak 08. Reshape 09. Japan Air 10. Shady Jibbin' 11. Panorama 12. South Mathematikz
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