Ableton - Push 2

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  • 昨年11月、Abletonは初開催されたプロデューサーカンファレンス「Loop」の閉会時に突如として秘密裏に開発が進められていた次世代のPushを発表し、世間を驚かせた。Ableton Live専用コントローラであるPushの第1世代はAkaiがハードウェア部分を担うコラボレーションとして誕生し、2年半に渡り成功を収めてきたが、AbletonはPushについて独自のヴィジョンを持っていたようで、そのヴィジョンを実現すべく、自社にハードウェア部門主任を初めて雇い入れていた。その結果、Abletonはハードウェア開発に注力できるようになり、第1世代のPushの弱点を修正しつつ、同カンファレンスで発表されたLive 9.5を最大限活かすPush 2を開発したのだ。 既にPush 1とPush 2の筐体差については色々と説明されているが、以下がその概要だ。Push 2のパッドとタッチストリップはオリジナルと比べて存在感が薄くなっており、全体のミニマルデザインが強調されると同時に、精度と演奏力が高まっている。また、オリジナルのゴム製の筐体は埃がつきやすいという不満の声が多かったため、Push 2ではより滑らかな陽極酸化アルミニウムが選ばれた。全体のレイアウトはオリジナルとほとんど同じだが、テンポとスウィングのエンコーダと他のボタン群の大半が整理されて見やすくなっている。また、オリジナルのディスプレイの真下に配置されていた2列の小型のボタン群(State Control 及びSelection Control)はPush 2ではサイズが大きくなり、マルチファンクションのボタン群としてディスプレイの上下に配置された。そのディスプレイについてだが、オリジナルはどこか見栄えの悪い区切りのあるLCDだったが、Push 2ではマルチカラーの大型TFTに変わったため、かなり細かい部分まで表示できるようになり、また、様々な角度から視認できるように配慮されている。これらの変更が加えられたPush 2の全体のサイズはオリジナルと比べてやや大き目の378mm x 304mmとなったため、オリジナル用のカスタムケースの使用については注意が必要だ。 新型ディスプレイのメリットは、新しいトラックをロードしてBrowseを押した瞬間から感じられる。整理されて見やすくなったブラウザはユーザーライブラリのロードが可能で、高解像度のディスプレイがオリジナルの2倍の文字数表示を可能にしているため、ファイル名やプリセット名は省略されない。オリジナルでは不可能に近かった長いサンプルファイル名の表示が可能になった点は特に便利だ。また、ブラウザのナビゲーションも簡単になった。エンコーダや矢印ボタン、ディスプレイ右上の2つのボタンなどを組み合わせることで、スピーディにメニュー内を移動できる。尚、Add DeviceかAdd Trackを押してもこのブラウザが表示され、Push 2から選択しているトラックのデバイスの並び替えやオンオフが直接コントロールできる。これは素晴らしい機能と言えるだろう。 ブラウザからサンプルをロードすると、LiveがそのサンプルをSimplerにロードする。すると、Push 2のディスプレイが光り、サンプルの波形が表示される。一部のユーザーからは、サンプルをオーディオトラック上に直接ロードできる機能(これはまだPushには実装されていない)を追加して欲しいというリクエストが出ていたが、Live 9.5のSimplerは大幅にアップグレードされているため、殆どのユーザーにとってはこれがベストチョイスになるはずだ。Live 9.5のSimplerは大幅に進化しており、様々なモードを備えたワープ、トランジェント検出機能付きの非破壊サンプルスライス、Cytomicによるフィルターアルゴリズムが組み込まれている。そしてこれらの機能はすべてPush 2から直接操作することが可能なので、ユーザーは楽器を演奏しているような感覚が得られるはずだ。また、Push 2から手を離すことなく、外部ソースから簡単に新しいサンプルをレコーディングすることが可能で(ただし、Pushでは現状トラックのルーティングは不可能なため、レコーディング前に自分でルーティングしておく必要がある)、そのあとは、Convertでその新しいサンプルをSimplerにロードして波形を確認した上で、スタート・エンド・ループポイントの設定とトランスポーズやスプレッドの量を調整できる。サンプル内の異なった部分を個々にトリガーしたい場合は、サンプルをスライスするかConvertを使ってSimplerからDrum Rackに切り替えて、スライスごとに変化させたり、ミックスさせたりすることも可能だ。 これらはすべてかなりパワフルな機能だが、現時点ではワークフローにちょっとした制限や機能差が存在する。たとえば、MIDIクリップがDrum Rackならば、各ノートのクオンタイズが可能だが、メロディクリップの場合はクオンタイズが不可能だ。また、Simplerのスライスは手動か、トランジェントの微調整でのみ可能で、ビートグリッドに沿ったスライスはできない。たとえば、サンプルを8分音符でスライスできるようになっていれば更に良かっただろう。 Push 2とLiveが改良できるもうひとつの部分が、サードパーティのプラグインのコントロールだ。プラグインのパラメータをコントロールするためには、LiveのConfigureを使用して、コントロールとオートメーションを行うパラメータを最大128選択する。次に、Push上でそのプラグインを選択すると、そのパラメータはLive上に表示される順番で8個のバンクで表示される。Liveではこれらのパラメータの順番をクリック&ドラッグで並べ替え、それをデフォルトプリセットとしてセーブすれば、プラグインのロード毎にそれがロードされるようになる。これは一部の目的をこなすためには十分なのだが、Push 2はバンクの切り替えになるので、それぞれに意味のある名前を与えて分かりやすくし、各バンク内のパラメータ数を8以下に減らしてスペースを与えつつ、合計128以上のパラメータ以上をアサインできるようにした方が良いだろう。この点についてはAbletonのフォーラムでかなり大きな話題になっており、実行するためには豊富な専門知識が必要とされる難解な次善策がユーザーコミュニティによって生み出されている。 このような細かい不満はあるものの、Abletonがハードウェアの改良とソフトウェアの新機能を組み合わせて実現した使用感の大幅な進化には好印象を持った。より感度の高いパッドや細かいコントロールが用意されたため、ハードウェアとしてはより演奏しやすくなった。特にライトタッチの操作を好むような人たちには喜ばれるだろう。また、再配置されたボタン群はよりシームレスで直感的になり、ユーザーの記憶力や計算力が問われなくなっている。そして最後になるが、新しいディスプレイとアップデートされたSimplerが、PushとAbletonをこれまで以上に「楽器」に感じさせてくれている。 Ratings: Build Quality: 4.9 Cost: 4.0 Versatility: 4.2 Ease of use: 4.5
RA