Petre Inspirescu - Vin Ploile

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  • Petre Inspirescuは2007年にLucianoのレーベルCadenzaからデビューしたが(英語サイト)、名声を得たのは、ルーマニアのRareshとRhadooと共同運営するレーベル[a:rpia:r]での精工に切り出したミニマル作品を通じてのことだ。2作目までのアルバム(2009年の『Intr-o Seara Organica...』(英語サイト)と2012年の『Grădina Onirică』)では、有機的でミニマルな音色がジャジーなタッチとモダンクラシカルな要素に混ぜ合わされていた。Inspirescuのトラックは自然なバランス感を保ちながら、多方面に拡散していくような印象だった。ダンスフロアだけでなく深夜の休息時間にも調和する内部回路によってしっかりと繋ぎ合わされたトラック同士には一貫性があった。 『Vin Ploile』の制作にあたり、Inspirescuは整然と揺らめくダウンテンポへの興味をさらに探求している。アンビエントミュージックに初めて挑んだ、とされる本作は、彼がこれまでに制作したクラシック指向の数作品と必ずしも離れているわけではないが、今回の音色には不思議な距離感と休息感がある(お気づきの人もいるかもしれないが、Mule Musiqによる2014年のコンピレーション『Enjoy The Silence Vol.3』にも最後の2曲が収録されている)。本作はゆっくりとした静かな場面を捉えているも関わらず、リスナーの意識を搔き乱すアルバムだ。 Inspirescuはこうしたトラックをほぼすべて生演奏で実現している。"Delir2"では、静かなパッドと彼方から聞こえてくる鳥のさえずりに対してキーボードの演奏がきらめいている。一方"Delir 3"では、背景で金属か何かが音を立てる中、柔らかなピアノサウンドの周りでハンドパーカッションが叩かれる。"Delir 4"で展開される夜更けのジャズワルツでは、微かなトランペットとゆっくりとしたドラムに対して深いサブベースがコントラストを成しているが、"Delir 5"になると、奇妙な優雅さを持った至福の空間からアコースティックギターが滑り出てきて、キューバのフォークソングのような雰囲気に変化していく。"Delir 7"では、空間を染めるブラックノイズと、シンセサイズされたスライドギターのようなサウンドの上を、カウベルが音を立てながら転がっていく。 『Vin Ploile』が持つ狡猾な複雑性についつい我を忘れてしまうため、個別にハイライトを選ぶことは不可能だ。お気に入りのトラックを選んだり、一部分だけを繰り返し聞いたりするような味わい方は、『Vin Ploile』に相応しくない。延々とひとつながりになった音空間に漂う作品として本作は聞かれるべきだ。Inspirescuは丹念にアルバムを制作して、気怠く深淵な夜間や森の散策に適した厳粛なシンフォニー的作品を生み出そうとしていた、そんな印象だ。『Vin Ploile』にはいつまでも楽しめる非日常が広がっている。
  • Tracklist
      01. Delir 1 02. Delir 2 03. Delir 3 04. Delir 4 05. Delir 5 06. Delir 6 07. Delir 7 08. Lumiere 09. Pan'la Glezne
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