Keita Sano - Nothing For Nothing

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  • 灯台下暗し、クラブ・ミュージックというとどうしても海外に目が向きがちだが、しっかりとアンテナを張っていれば国内の才能にも本来は気付く事が出来る筈だ。残念ながら当方は今まで岡山のKeita Sanoという存在に気付く事が出来なかったが、まだその存在を知らない人もこの新作を聴くだけで、彼の可能性の多さを計り知るには十分過ぎるだろう。遡って経歴を調べてみると元々2012年頃から配信でのリリースを開始し、2014年からはMister Saturday NightRecordsやHolicTraxなど多数のレーベルからアナログを、そして1080pからはアルバムである『Holding New Cards』をリリースして、テクノ/ハウスというフォーマットを軸にしながらもそこにディスコやジャズにブレイク・ビーツにロウ・ハウスまで、様々な要素を垣根なく取り込む遊びの感覚を発揮していたようだ。個性を絞らせないように領域を越えていくスタイル、それこそが彼の個性にも思える。 この新作でも収録されている4曲は同じアーティストが手掛けたようには思えない程に異なる音楽性が混在しているが、そのバラエティーの豊かさだけが目立つのではなくどれもフロアで聞いてこそなダンス・ミュージックの本質を備えている。スローモーなハウスの"Sunset"は刺激的なハンドクラップと地面を這いずり回るベースのうねりが強烈だが、輝かしいシンセのコードからは底抜けの明るさが感じられ、じっくりと幸せな気分に満たされるようだ。逆に"Chango"は和太鼓らしきリズムが弾ける勢いのある曲で、そこに掛け声らしきサンプリングと妙にポップなシンセも入ってくれば、身も心もうきうきと踊り出す事間違いなしのトライバルなハウスだ。そしてタイトル曲の"Nothing For Nothing"ではブラジルのバトゥカーダ風に複数の打楽器やホイッスルが乱れ打ち大きな波となって押し寄せる迫力があり、"Daze"では一転して錆び付いたドラムマシンやシンセが冷徹にビートを刻みながら荒廃した雰囲気を生むロウ・ハウスで、どれもこれも同じEPの中に同居しているのが不思議な程だ。敢えて言うならばダンス・ミュージックという共通項では繋がっている位だが、この枝分かれする音楽性だからこそ次は何が出てくるのかと期待をしてしまうのだ。
  • Tracklist
      A1 Sunset A2 Chango B1 Nothing For Nothing B2 Daze
RA