Mantis - Pulverized EP

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  • 音響という言葉はOnkyoとして日本国外でも語られている。この場合の音響とは、構造を持ったひとつの楽曲としての音楽というより、ひとつひとつのサウンドそのものに(さらには、無音部にまで)意識を向けることで生まれる音楽体験を指す。一方でダブという言葉がある。楽曲に使われているベース、ドラム、ボーカルといった各素材を、コンソール上に並ぶトラックに割り当て、フェーダーやエフェクトのノブをリアルタイムで操作しながら再構築した別バージョンを起源とする音楽だ。こちらはリバーブやエコーといったエフェクトを活用して残響を加えることでトラックの”間”を際立たせたり、音の鳴りの部分に変化が加えられたりする。音色に焦点があてられているという意味で共通しているふたつの要素を、必要最低限の素材を使って高次に融合させた先駆的な存在としてPoleことStefan Betkeが挙げられる。そして、彼がマスタリングしたEP「Pulverized」を手掛けたMantisも、その系譜上に位置するプロジェクトだ。 “Pulverization”では素材のピッチを落とすことで再生スピートを引き伸ばし、散り散りになったテクスチャーの一粒一粒まで蝕知できる音像を生み出している。ずっしりとしたキックはトラックの深みを象徴しているかのように重々しく、全体的に空間が十分に取られている分、鈍い摩擦音のような唸りを上げる低音や圧搾音の残響が減衰していく様子が最後まで伝わって来る。非常に限られた音数にも関わらず、それを感じさせない、多くの情報量が詰まったサウンドだ。Burnt Friedmanがリミックスした”Tropic”を聞いた瞬間、Poleの名作『R』を思い出す人が多くいるのではないだろうか。ダメージを加えて少しざらつかせたPaul St Hilaireの声が断片的に用いられ、牧歌的な空気から哀愁の成分を取り除いたようなメロディーが前面にフィーチャーされている。有機的なテクスチャーで無機質な感覚を表現した、言いようのない雰囲気を携えたトラックだ。両曲共に音響的視点からダブを換骨奪胎したサウンドを提示している。それはつまり、Poleが切り開いたミニマルダブの可能性をさらに探求していることに他ならない。
  • Tracklist
      A1 Pulverization (EP version) B1 Tropic feat. Paul St Hilaire (Burnt Friedman Remix)
RA