Soichi Terada in Tokyo

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  • 2015年、世界のダンスミュージックシーンでは、日本人ハウスアーティストSoichi Teradaの再評価が起こった。今年2月にRush Hourからリリースされた作品集がそのきっかけとなり、Teradaはここ数ヶ月、ヨーロッパ各地で最新のライブショウを行なってきた。先月、Teradaの拠点である東京を訪れた筆者は、彼と長年のコラボレーターであり盟友であるShinichiro Yokotaが、1998年振りに一緒にライブをするパーティーを発見。こんな機会を見逃すわけにはいかなかった。 パーティーは、「友人同士が集まるくつろげる夜」という宣伝文句の通りだった。会場のClickは、キャパシティ30人ほどの小さな地下ヴェニュー。渋谷の街の眩い光を離れ、首都高速沿いを西へ移動した、池尻大橋エリアに位置する。筆者が2週間の日本滞在の中で訪れた中でも、間違いなく1番静かな場所だ。 Clickは誰かのリビングルームの様な空間だが、バーカウンターがあるほか、たくさんの細やかな装飾が施されている。一角には寝具があり、トイレはダンスフロアと直の場所に入口がある。そしてサウンドシステムは、ベニヤ板とコンクリートブロックで支えた、筆者が今まで見てきた中でもトップクラスでDIYなものだった。狭い階段を降りてクラブに足を踏み入れるや否や、Teradaのチェシャ猫のような笑顔が筆者を迎え入れてくれた。そんな友好的な雰囲気の漂う中、少し控えめな雰囲気のYokotaの前に立つ彼は、両手を広げながら皆に挨拶をした。 ローカルと若い外国人が入り混じったクラウドで、クラブはあっという間に満員に。Teradaが機材のセットアップを続ける中ウォームアップDJがクラウドを盛り上げ、その全員が同じ気持ちになるまでにそう時間はかからなかった。マイクとカムコーダー、小さなLCDスクリーンの設置を終えた彼は、トレードマークの1つである花柄のシャツに着替えた。 Teradaは、 "Saturday Love Sunday"、"Shake Yours"、"Low Tension"といった自身のビッグヒットのショートバージョンを畳み掛けるようにプレイ。しかし、クラウドが1番大きな歓声を上げたのは、やはり "Do It Again"と"Sun Showered"であった。その後彼は、シンセから離れ両手を大きく動かしながら、破天荒っぷりを発揮。ビデオカメラで手書きのラベルを写し、クラウドにトラックタイトルを見せ、そしてハンディサイズのビデオシンセサイザーを使いスクリーンに奇妙なヴィジュアルを映し出した。彼の音楽だけでも既に最高だったのだが、この狂的な行動と愛くるしいユーモアによって、より個性的なセットになった。 Yokotaが交代したのは、結局午前2時過ぎだった。キーボードを中心に据えた、彼の洗練されたライブセッションは、とてもリラックスした雰囲気で始まった。彼のセットはTeradaのそれよりもディープかつジャジーで、いくつかの未発表曲や、"Do It Again"の別バージョンなどを披露してくれた。2人の出番が逆だったほうが自然に感じられたような気もするが、ひたすらチャーミングなTeradaがクラウドを盛り上げ、場の雰囲気を賑やかにし続けていた。 残念なことに、筆者は翌朝のフライトに乗るため、早めにクラブから退散しなければならなかった。筆者が出口へと進む途中、まるで別れの挨拶をするかのように、寺田は両手を広げてみせた。大きな笑みを浮かべた彼は、その日自身が使っていたmini kaoss padを筆者の手に持たせ、少しいじらせてくれたのだ。筆者はスクリーンの前を通りながら、サウンドシステムから響く温かくてハイピッチな音を聴き、その場を後にした。帰宅するまでの間、笑うのを止められなかった。 Photo credit: Thomas Sebastian
RA