Pioneer DJ - DDJ-RZ / rekordbox DJ

  • Share
  • PioneerのrekordboxはCDJ用のデジタルデータの整理・分析・編集・エクスポートなどが行えるソフトウェアだ。元々はフランスの企業Mixvibesがコーディングを行っていたが、バージョン4.0からは再びPioneerがインハウスで行っている。また、同時にrekordbox DJが15000円、もしくは毎月1200円のサブスクリプション方式のいずれかで使用できるようになった他、フラッグシップハードウェアのDDJ-RZもリリースされた。 DDJ-RZはコントローラであると同時に、4チャンネルミキサーでもある。PHONO/LINE2系統・LINE2系統にDJMシリーズ定番のSound Color FXが備わっているこのミキサーは、ラップトップなしのスタンドアロンとして使用できる。また、マイク入力、アジャスタブルクロスフェーダー、XLRとバランスの2系統の出力端子も備わっているので、DDJ-RZの購入は包括的なミキサーを購入するのと同じだ。ややコンパクトなサイズを考えれば、常設のコントローラを探しているバーやクラブにとっては最適と言えるだろう。更にUSB端子も2系統備わっているので、2台のラップトップ間のミックスも自由に行える。 RZのその他の部分を見ていくと、ジョグはCDJ-2000NXSと同型が使用されているため、大型でハイクオリティだ。ジョグ中央部にもNXSと同じON JOG DISPLAYやJOG ADJUST、インジケーターも備わっている。新規ユーザーや自宅練習用にRZを選んだ人たちにとって慣れ親しんだデザインという要素は重要だが、PioneerがCDJのスクリーンを引き継がなかった点はミスだと思えた。BPMやテンポのパーセンテージなどの重要な情報が上部に表示されていても良かったはずで、CDJでスクラッチをしない人たちのために、ディスプレイがこれらを表示するように切り替えられる仕様でも良かっただろう。もちろん、これらの情報はソフトウェア上には表示されるが、コントローラはラップトップの画面を見ないで済むようにデザインされるべきだというのが個人的な意見だ。他にはNEEDLE SEARCHパッドやPLAY/PAUSEボタン、CUEボタンがCDJからそのまま流用されている。コントローラ全体の感触は非常に堅牢且つプロフェッショナルで、10kgを超える重量にふさわしい。また、各デッキ上部にはRMX-500のようなキルスイッチを含むエフェクトコントローラや、ブラウズコントロール系ボタンが備わっている。 RZが最も優れている部分のひとつがそのサウンドクオリティだ。CDJ-2000NXSに搭載されているWolfson製コンバータが搭載されているため、そのサウンドの厚みは非常に素晴らしく、筆者がこれまでにテストしてきた他のコントローラやDJ用サウンドカードとは天地ほどの違いがある。しかし、ソフトウェアが上手く機能しなければ、そのハイクオリティなサウンドも意味がなくなってしまうわけだが、そのソフトウェアrekordbox DJに関しては、Seratoユーザーの方が他のソフトウェアユーザーよりも快適に操作できるだろう。実際、DDJ-RZはPioneerが2014年にリリースしたSerato専用コントローラDDJ-SZとほとんど同じだ。このソフトウェアを立ち上げて最初に気になるのが細かくて見づらいGUIだろう。フォントは非常に小さく(サイズ変更は可能)、水平表示(Horizontal)の2デッキも窮屈に感じられるので、ほとんどのユーザーがSeratoのような垂直表示(Vertical)に切り替えるはずだ。尚、rekordboxのライブラリは大方の予想通りそのままこのソフトウェアに移行されるので、現在rekordboxを使用しているユーザーはフォルダの階層やトラックのロード方法などにはすぐに慣れるはずだ。rekordbox DJの初使用時に問題を感じる人はまずいないだろう。そして機能のひとつPAD FXは非常に面白く、パッドをホールドしている間エフェクトがかかり、リリースすれば外れるが、空間系のエフェクトの場合はリリースしたあともテールが残るようになっている(調整可能)。 パッドはPAD FXの他にも、トラックごとのHOT CUE、BEAT JUMP、SLICERに使用できる。SLICERはTraktorのFreezeモードに似ている機能で、ボタンを押している間そのパッドが担うループのスライスをトリガーできる。しかし、Freezeとは違い、SLICERではトラックがバックグラウンドで常に走っているため、SLICERで変化を加えられる小節が自動的に先へ移動する。ただし、SLICERは自動的にSLIPモードを選択し、トラックを常にスライスしながら至近のビートに同期して移動していくので、操作がDJプレイのミスに繋がる可能性はほとんどない。非常に面白いパフォーマンス用オプションと言えるだろう。 rekordbox DJはサンプリング機能とシーケンス機能が際立っている。サンプラーは再生されているループのパッド上へのレコーディング、ブラウザ上のサンプル(1曲そのままも可能)のロード、8個のパッドに沿ったサンプルの配置が可能だ。この機能は他の大手DJ用ソフトウェアよりも効率よくサンプルをトリガーできるものだが、それだけに留まらず、パフォーマンスをパターンとしてレコーディングし、リアルタイムでのループや、セーブ後の使用も可能だ。デッキごとに8スロット x 4バンクが用意されているが、PAD FXやHOT CUEも含めたすべてがレコーディングできればベターだっただろう。DDJではサンプラー専用のチャンネルが用意されており、Sound Color FXを単独でかけることが可能だが、サウンドカードを使用している場合は、各デッキとサンプラーチャンネルを個々のアウトプットにアサインすることも可能だ。 しかし、rekordbox DJはMIDIマッピングがサポートされていないため、これらのパッド機能は対応ハードウェア上でしか使用できない。rekordbox DJのルックスが気に入っても、対応しているハードウェアでなければプラグインやマッピングが不可能なので、USBやSDカードにエクスポートするための整理用ソフトとしてrekordboxを使用しているユーザーがパッドなどを使用したミックスのレコーディングや練習をしたい場合は、対応ハードウェアを購入する必要がある。 これからDJを始めるという初心者が他のソフトではなくrekordbox DJを選ぶのは理に叶っていると言える。このソフトウェアをデフォルトで使用していれば、クラブでラップトップを使用しない場合でも、トラックを再整理することなくすぐにCDJに切り替えられる。rekordbox DJは非常にシンプルで、それ故にヒットする可能性がある。他のソフトウェアがより複雑なパフォーマンス機能の導入に向かっている中、ハイクオリティなエフェクトとシーンに広く浸透したサポートを備えたソフトウェアを使ったシンプルな2デッキミックスだけができればOKと考えているDJの数は多い。現時点では、rekordbox DJがリリースされたという理由だけで既存のrekordboxユーザーが足並み揃えてラップトップDJに切り替わる可能性は少ないが、Pioneerはこれまでのライブラリ機能を自宅練習とミックスのレコーディングを可能にする非常に良く考えられたソフトウェアと上手く組み合わせることに成功している。また、これは極めて重要なポイントだが、rekordbox DJで作成されたキューやループポイントは、エクスポートされてもそのまま残るので、CDJ本体は高くて買えないが、使いこなせるようにはなりたいと考えている人にとっては魅力的な選択肢だ。エクスポート中にパフォーマンスモードに切り替えられないこととMIDIマップの欠如を差し引いても、Pioneerは新しい事業を非常に上手くスタートさせたと言えるだろう。また、DVSコントロールや追加エフェクトも準備が進んでいるため、注目しておくべき存在だ(共に有償)。また、今すぐrekordbox DJを購入したいという人にとっては、DDJが間違いなくベストなコントローラだ。Native InstrumentsやNumarkに期待するような大型ディスプレイこそ欠如しているが、筆者がこれまで使用した中で最も身近に感じられる直感的なコントローラだった。 Ratings: DDJ-RZ Sound: 4.8 Cost: 3.1 Versatility: 4.0 Build: 4.0 Ease of use: 4.0 rekordbox DJ Cost: 3.0 Versatility: 3.8 Ease of use: 4.3
RA