Francois K. at Air

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  • Francois Kは、70年代から常にダンスミュージックに向き合ってきた開拓者だ。ここ日本でも衰えぬ人気を誇っており、92年、Paradise Garageの伝説Larry Levanと共にツアーを行ったのは特に有名だろう。その後定期的なペースで来日する中で、代官山Airでも幾度となくDJを行ってきた。それだけでなく、Airが手掛けるMix CD シリーズ『Heartbeat Presents Air』 からも2枚のリリースがあるなど、AirはFrancoisにとって国内でも特に縁深いと言えるヴェニューである。 2015年末のAirクローズに伴う来日ということもあり、この日のパーティーへの期待はかなり高まっていたようで、地下のメインフロアの扉を開いた瞬間、早速眼鏡が曇ってしまうほどの熱気に包まれた。Toshiyuki Gotoのエネルギッシュな選曲とハウスマナーに則ったアイソ使いで、既にフロアは興奮のるつぼとなっていた。やはりAirのシステムとNYハウスの相性は抜群で、ヴォーカルの息遣いからピアノの感情溢れるフレーズまで楽曲の肝を存分に味わうことができた。 Francoisは一転してテック系のサウンドに移行しつつ、ダイナミックなグルーヴのハウスで流れを継ぐスタート。長い旅の始まりを予感させる壮大さ。幾度となくAirでもプレイしているだけあり、即座にフロアの空気感とシステムのツボを押さえるような選曲だ。使用機材を確認すべくブースを覗いてみると、ラップトップ+Native InstrumentsのTraktor Kontrolや、PioneerのEFX-1000といった機材がさながらコックピットのようにセッティングされていた。この光景も、氏のDJを象徴するものと言えるだろう。いずれの機材も積極的に使用されており、ロングディレイによるブレイクを創り出すなど、楽曲にスペーシーな飛びの要素を付加していた。 序盤のピークはPatrick Adamsによる定番クラシック“Weekend”のリエディットをプレイした辺りだろうか。入り口に列をなすほどに人も集まり、フロアは動く隙間もない。それ故か直球でアップリフティングなハウスを中心とした選曲で突き進みつつ、氏のレーベルWaveTecにも通じるテクノテイストな展開も披露した。セットの中盤からは、氏の深いキャリアと選曲眼が活かされた、よりジャンルを横断した選曲を披露。ディスコクラシックから、没入感の高いディープハウス、そしてデトロイティッシュなテクノまで広くプレイ。名残りを惜しむかのようなオーディエンスの勢いは衰えることなく、Francois自身もそれに応えるように展開を保っていた。終盤に差し掛かった頃にはベースミュージック系のグルーヴからダブステップへと移行。このあたりの選曲は氏のパーティーDeep Spaceで見られる嗜好も伺えた。さらに一転してRomeo Void “Never Say Never”からニューウェイブ・ポストロック方面を掘り進めると思いきや、Nuyorican Soul feat.Jocelyn Brown “It's Alright, I Feel It!”から“Strings of Life”、そしてPrinceの“I Wanna Be Your Lover”へと繋ぐ特大クラシックの応酬。まさにこの日のピークと言える瞬間であった。続けてBorder Communityの昇りつめるようなプログレッシブハウスを経由し、ミニマル色の強いディープハウス・テクノ路線へと回帰。さらなる展開を期待させつつ、ラストはJoi Cardwell “Music Saved My Life”ネタのトラックだっただろうか。終了後、まだまだ多くのオーディエンスがフロアに残る中、Francois自身がマイクを握り、日本語で感謝のメッセージを語りかける光景も印象的であった。彼が言うように、フロアを取り巻く様々なシチュエーションも相まって一つの到達点を感じるパーティーであった。 ベテランの域に達したDJの中には、ジャンルを横断するスタイルに慣れ親しんだDJも数多い。それでもFrancoisのように近年のトレンドからかつてのダンスクラシックまでを一括りに、流れを創りながらプレイできるDJはそうそういないはず。シチュエーションに応じつつも一つの作品のような完成度のセットを披露するスキルから、音楽に40年以上携わり続けた年季を感じた。それだけに深まる余地のある氏の選曲をより長く、この場で聴いていたかったとも思う人が多かったようだ。(一般のDJと比べればはるかに長くプレイしていたが)より長時間のDJを予想していたと思われる、不完全燃焼気味なオーディエンスもちらほらと見かけられた。それだけ期待されるのも、裏返せば未だFrancois Kがダンスミュージック界の巨人であることを証明しているのではないだろうか。 個人的な予想では、かつてのNYハウス世代が集まるパーティーになるのではと思っていたが、若い世代の人々も多く訪れ、深い時間まで音楽を楽しんでいたように伺えた。パワフルな出音のメインフロアだけではなく、踊り疲れた際にちょうどよく落ち着けるバー、ラウンジの配置も含め、長く遊び続けられる空間はやはり魅力的だ(さすがにこの日の混み様では行き場のない瞬間もあったが)。アンダーグラウンドな雰囲気がありながら閉塞感のないムードも含め、Airが国内でも突出した“クラブらしさ”を感じられる箱だということを再認識できた一夜でもあった。
RA