Mahal - Ongaku

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  • ドイツはケルンのRough House Rosieは2013年に設立されたまだ歴史の浅いレーベルではあるものの、アンビエントなムードを含む深遠なディープ・ハウスの音楽性やクララ・ボウの肖像をラベルへと用いた制作で注目を集め、次世代のディープ・ハウスを代表するレーベルの一つだ。既存のタレントに頼る事なく新世代の発掘を重視する傾向が強いが、その一方で2014年にはTakayuki ShiraishiやMirugaなど日本のアーティストの曲を纏めた「Jujiro EP」をリリースするなど、その独特なセンスに魅了される人も少なくはないだろう。 そんなレーベルの最新作はこれまた日本人アーティストであるMahalの初のソロ作品である。Mahalは若かりし頃はラジオでヒップ・ホップやロック、ジャズやレゲエにテクノなどに出会い、ジャンルに偏る事なく音楽に慣れ親しんでいたそうだ。20代半ばには楽曲制作を開始し、同時にMPCで他のアーティストとのセッションも重ねるなどしていたが、2010年頃からはハウス・ミュージックに手を出す事になる。その結果としてSoundcloud経由でMahalの音楽に目を付けたレーベルにより、「Jujiro EP」でMahalが取り上げられた事を考えると、レーベル側も期待をしているアーティストに違いない。Mahalによる新曲は"Ongaku"の僅か一曲のみだが、ヒスノイズのような環境音と土着臭漂うパーカッションが虚ろに響く中でぼんやりとダビーな残響や覚醒的なシンセがふらふらと浮遊し、深い霧が立ち込める密林の中へと誘い込まれるようなトリップ感は相当なものだ。聴き込む内にいつしか時間と場所の感覚が狂い、現実から逃避するかの如く中毒的な覚醒感を発するアブストラクトな作風は、これぞRough House Rosieらしい。また裏面には二人のアーティストによるリミックスが収録されており、USハウスで台頭してきている女性アーティストのLady Blacktronikaは、鈍くざらついたビート感と訝しいファンキーなボイス・サンプルを導入して、原曲とは異なるツールとしての方向へ収束させたミニマル性の高いハウスを提供している。もう一人はRough House Rosieの代表格とも呼べるHVLが、原曲のアブストラクトな音楽性を踏襲しながらもより静かな空間が際立つように、空間の広さは損なわないようにダビーな音響を保ちながら音を削ぎ落として、静寂を感じさせる崇高なリミックスを披露。それぞれのアーティストの持ち味を活かした作風だが、今回はMahalによるトリップ感満載の原曲が何よりも素晴らしく、今後の活躍に期待を寄せるには十分だ。
  • Tracklist
      A1 Ongaku B1 Ongaku (Lady Blacktronika Remix) B2 Ongaku (Hvl Remix)
RA