Terra Incognita feat. Peverelist & Hodge

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  • Airが仕掛ける新イベントの、“Terra Incognita”というタイトルは、ダンスミュージックにおける未開、あるいは実験的な部分への介入を仄めかしているが、初回のBen UFOとCall Super、そして今回のHodgeとPeverelistというラインナップを見ると、同パーティーがUK志向のクラブミュージックや、サウンドシステム・カルチャー、サブウーファーで埋め尽くされたウェアハウスで発達してきたシーンにインスパイアされたテクノにフォーカスしているということが、ハッキリと分かる。 その為もあって早めの時間にクラブに行ったところ、筆者は嬉しい驚きを発見した。テクノとハウスに強いAirのメインルームのサウンドシステムが、この日はディープなサブベースを響かせていたのだ。オープニングアクトであるDJ Yaziがアブストラクト・セットを披露しており、ノイズやクラックル、ヒスなど頭がクラクラするような音の渦によって、木製の床は不気味に震えていた。彼はひたすら低い周波数を繰り出しながら、サウンドシステムの威力を最大限に発揮していた。その後、轟音の中からキックドラムが鳴り始め、セットは90BPM前後になった。彼のプレイは時折、System Musicの創設者V.I.V.E.Kによる、ラップトップのスピーカーでは決して聴くべきではない、レイヤーを重ねたアトモスフェリックなダブ作品を思い起こさせた。 続いて登場したENAは倍近くまでテンポを上げ、撃砕的なセットを繰り広げた。彼が今年4月にSamurai Horoからリリースしたカセットアルバム『Divided』のアンビエントな雰囲気とはかけ離れたプレイで、むしろ彼がかつて7even Recordingsからリリースしていた作品のような、熱狂的なエネルギーが感じられた。それは、彼がピークタイムのスロットやクールダウンのアンビエントセットなど、どんな時でも素晴らしいプレイをする最高のアーティストだという証明でもあった。実際、この最初の2人の日本人DJたちは、パーティーのヘッドライナーを務めてもおかしくないほどの腕前を持っている。 今回がジャパンデビューとなったブリストル拠点のアーティストHodgeは、UKの中でも近年最もエキサイティングなプロデューサーの1人だ。Punch DrunkやLivity Sound、Berceuse Heroiqueからの秀逸なリリースは、大箱向けで強力なベースのトラックを作らせたら彼に匹敵するアーティストは数少ないであろうことを物語っていたし、彼がプレイを始めた時も同じことを感じた。最初の1時間だけで、彼はKowtonの“Glock and Roll”、Ekman “GMMDI”のBreaker 1 2によるガバっぽいリミックスといったウェアハウス・アンセムを投下したほか、彼自身の新曲“Burned Into Memory”もチラリとプレイしてくれた。Hodgeの若さ溢れる勢いと完ぺきなミキシングによってフロアのエネルギーは高められていったが、セットの中にブレークタイムや分かりやすい緩急はほとんどなく、それで2時間は長過ぎるようにも感じられた。 一方、これまでにも数回来日しているPeverelistは、終始安定のプレイを展開。ディープなアシッドやテクノにシフトした後、自身とKowtonによるLivity Soundアンセム“End Point”のようなヒット曲の数々を抜け目なく挟んできた。最後のトラックはLFOの“LFO”、つまりLow Frequency Oscillator=低周波オシレーター。今回のパーティーの音を考慮した彼なりの戯れだったのかもしれない。Peverelistがプレイを終える頃、ダンスフロアはたくさんの笑顔で満ち溢れていた。このことと、先月Ben UFOのプレイが喝采を浴びていた事実には、東京にUKクラブミュージックを愛する人たちがたくさんいることが如実に現れていた。そして、Airというクラブが、過去から続くものを継続するだけではなく未来を見据えたイベントを開くという勝負に出たのは、実に素晴らしいことである。
RA