Stanislav Tolkachev ‎- Walk Along The Bottom

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  • Stanislav Tolkachevのようにしっかりとした見解を兼ね備えたテクノアーティストはいない。ウクライナを拠点とするこのアーティストは、機材と一体化しているかのような歯切れのよい唯一無二のスタイルにより、ここ何年もDJやプロデューサーの間で根強い人気を誇っている。刺々しいシンセと難解なドラムパターンから構築された彼の無響音楽は決して親しみやすいものではない。本当に優れたセレクターでなければ、彼の音楽をクラブ環境で機能させることはできない。こうした挑戦的なサウンドがDJやプロデューサーから好まれ続けているのは、Tolkachevが持つ才能の証である。Svrecaのレーベル、Semantica Recordsから発表される彼の最新EP「Walk Along The Bottom」は、彼の地位をテクノシーンで極めて魅力的な存在として改めて位置づける1枚だ。 Tolkachevのベストレコードは素晴らしいDJによって運営されているレーベルから発表されてきた。セレクターの視点により、ループ主体のミニマルサウンドから濃厚でダイナミックなサウンドまで、幅広い彼のサウンドが巨大な一片に切り出されたパッケージにまとめられている。今回の最新作ではこの点がまさに表れている。ダンスフロアトラック3曲とアンビエントトラック1曲から成る「Walk Along The Bottom」では、Tolkachevの奇妙な世界へとさらに深く潜っていく。そこは荒々しくも、心地よい多様性がある場所だ。この12インチを人前でプレイするつもりで購入しようとしているなら、轟く"Song About My Neighbours"がおすすめだ。鈍い音を立てる複雑なパーカッションと顔面が融解してしまいそうになるシンセを用いた同トラックは、本作で最もマキシマムだ。比較的、変化が微細で素材を削ぎ落しているのが"Unknown And Untitled"だ。おそらく、Tolkachevがリリースしている中で最もDJツールに近いものだろう。とはいえ、分かりやすいキューポイントやブレイク、ミックスしやすいイントロといった通常のテクノが持つ特性は見当たらない。 彼が手掛けた過去の数作(「All Night Vigil」、「Right Angle」ともに英語サイト)のように、「Walk Along The Bottom」にも沈痛なビートレストラックが収められている。しかし、アンビエント路線をフィーチャーした多くのテクノ作品とは異なり、"In The Rays Of The Artificial Sun"は本作全体にとって欠かせないトラックのように感じられる。同トラックは鮮明としていてポジティブな雰囲気があり、正体不明のシンセサウンドが無数に踊り交わしている。Tolkachevが制作するDJフレンドリーなトラックが持つロウなエモーションはこの上なく素晴らしい。しかし、この6分間のトラックからは、シンプルに彼のダンスフロアトラックとは相容れないような感覚が滲み出ている。EPを締めくくるのは方向感覚を失わせるダークなトラック"Dig Them Later"だ。慎重に使わなければ、ダンスフロアを白けさせてしまう可能性がある不穏なアレンジだ。 Tolkachevの音楽が持つ全体的な魅力に照準を定めるのは難しい。基本的に彼は万人から称賛されているのかもしれない。なぜなら、彼の作品はホワイトノイズやドラムロール、そして、派手なブレイクが一般化する前のテクノ黎明期を人々に思い出させるからだ。その点において、Tolkachevは最も古いテクノのクリシェに狙いを定めていると言える。つまり、彼は未来的なサウンドを鳴らすのではなく、しびれるような過去を体現しているのだ。
  • Tracklist
      A1 Unknown And Untitled A2 In The Rays Of The Artificial Sun B1 Song About My Neighbours B2 Dig Them Later
RA