Fasten Musique Concrete in Niijima

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  • エメラルド色にきらめく海岸と白砂に彩られ、非日常的な時間のゆるやかさを楽しめる伊豆諸島の一つ、新島。島内の中心街から約15分ほどの海水浴スポット・前浜海岸にてひと月の間開かれる、知る人ぞ知るビーチラウンジ新島WAXにて、イーストロンドン発の邦人パーティークルー、Fasten Musique Concreteによるパーティーが開催された。都内のクラブとは一味もふた味も違ったシチュエーションだからこそ、セッティングの様子からも「楽しむことへの気合」の入りようが伺えた。 オープンアクトは都内で活動するAma and Genki+Word of Mouth。BPMの縛りに捕われず、ブレイクビーツやビートダウンで緩やかにスタート。まだ鮮烈な日差しが照りつける3時台、人々は隣の海岸でめいっぱい泳いだり、バーの周りで日陰を探しつつ音楽をゆるやかに楽しんでいた。続くFastenクルーのOsamu&Naoshiは徐々にディープハウスへとシフト。日が落ちていくまでの絶好のシチュエーションの中、Larry Heardのようなエモーショナルな選曲もことさら映える。先述の通り晴天に恵まれた日であったが、繊細な機材にとっては過酷だったようで、ミキサーやCDJを調整する瞬間もあった。続いて、Yasuはさらにエレクトロニックなサウンドに転換しつつも、どこか情感を感じさせるグルーヴが心地よい。生音や声ネタのミニマルなループハウスから複雑なリズム展開もスムーズにこなし、より踊れる、開放的なムードをもたらしていた。 日も完全に暮れると、この日の真打KABUTOが登場。硬質かつファンキーなグルーヴを下地に、ダビーな展開による焦らしも交え、徐々に集まる観衆を着実にとらえていく。充分にフロアの熱気が高まった終盤からは、Cobblestone Jazz “India In Me”やInfiniti “Game One”といったクラシックで一気にスパートをかける。ラストは度重なるアンコールの末の延長戦の果てに、UR初期の名盤“Nation 2 Nation”をプレイ。心を揺さぶるフィナーレであった。 昨年もそうだったようだが、この日も別の目的で新島に来た観光客や、島民の方も訪れていた。皆が音目的ではないシチュエーションだからこそ、いつ何人を迎えようと揺るぎない音のクオリティが必要だと言えるだろう。実際に、たまたま遊びに来たようなオーディエンスも徐々にステップを踏み、気づけば白砂のフロアのど真ん中へと飛び出す光景も。一方、夕食の時間帯や気温などの影響もあり、19時以降に集客が集中していたのは少々勿体なさを感じた。全ての時間帯で抜群なDJを聴くことができたため、なおさらである。また、この週のWAXはターンテーブル、ミキサー、スピーカーまで全てPioneerで統一。高解像度かつパンチのある出音はもちろん、生音の細やかなフレーズの表現も抜群で、パーティーの満足感を一際押し上げる要因となっていた。 船旅(もしくは飛行場からのルート)を経て向かうため、けっして楽な道のりではないが、新島全体の雰囲気も含め、それだけの価値があることは間違いないと保証できる。焼けるような日の光、踊るには少しもたつく砂浜のフロア、民宿から海岸線への道のり、いずれもが不思議と高揚感に結びつき、魔法のような印象を残す。Fastenクルーが手掛けたパーティーは、美しい新島の魅力をさらに引き立たせる、スパイスのような体験をもたらしてくれた。
RA