Kuedo - Assertion Of A Surrounding Presence

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  • かつてJamie TeasdaleがKuedo名義で自らのサウンドを再構築していた頃、後に来たるベースミュージック時代の方向性を決定づける傑作アルバムをリリースした。モダンラップのリズムに80年代サイファイサウンドの寄る辺の無いシンセを組み合わせた『Severant』(英語サイト)は、どこか時代錯誤でありつつも同時にしっかりと現行に沿った印象で、数年後にダンスミュージックを席巻することになる影響力を内包していた。Teasdaleは『Severant』以降、シングルを1枚(英語サイト)しかリリースしていないが、ラップミュージックを独自のダンストラックに混ぜ合わせる今日の新世代プロデューサーに対し、彼は今でも影響を与え続けている。そのため、Teasdaleの待望の帰還となる本作には今後のシーンに対する重大さを感じずにはいられない。「Assertion Of A Surrounding Presence」は、新たに登場し傑出した存在となった彼による『Severant』をもとに構築されたという。先のアルバムが回顧的かつ現代的であったのに対し、本作は未知なる領域を模索している。 TeasdaleはVex'dでパートナーを組んでいたRoly Porterや、Egyptrixx、Phoebe Kiddoと一緒に「Assertion Of A Surrounding Presence」を制作しており、本作の凍てつく外郭からは彼らの影響が滲み出ている。例えば、Porterはハッとさせられるモダンクラシカルなダイナミクスを、そして、Egyptrixxはアブストラクトなアレンジメントを本作に持ち込んでいる。ドラマティックなシンセが駆け抜け、Kuedoの過去作品が持つ洞窟的雰囲気は衛星軌道上の宇宙船の光景を思わせる。本作はそうした乗り物の内部にいるようなサウンドだ。THXエフェクトとダイナミクスに並んでパンパイプが鳴らされる"Vertical Stack"では、Teasdaleによる孤独と悲しみのエレクトロニカワールドへと放り込まれる。"Boundary Regulation"における自動掃射のようなアルバムのピーク時は、The Alan Parsons Projectを彷彿とさせ、極めてサイファイで確信的だ。 本作のサウンドはTeasdaleならでは独自性を持ちながら、以前とは異なる動きを見せている。小刻みなトラップのドラムサウンドはかつてのようなには使われておらず、何かのついでに鳴らされるに留まっている。"Border State Collapse"と"Boundary Regulation"の精巧な構成に、サザンラップの高ピッチスケールがフィーチャーされているが、そのサウンドは元々のコンセプトから完全に切り離されている。そして、"Eyeless Angel Intervention"では、Teasdaleが早くから興味を持っていたフットワークに立ち返っているが、トラックは崩壊した異質なフレームの中で提示されている。 『Assertion Of A Surrounding Presence』は、よりヘビーになっていることに加えて、より実世界の音に近くなっている。"Case Type Classification"における3次元ドラミングは、ある時にはボンゴのように聞こえ、次の瞬間には轟くバスドラムのように聞こえる。他のトラックではサンプリングされた機械の騒音や金属音が使われ、本作のクライマックスとなる不気味なトラック"Event Tracking Across Populated Terrain"では、TeasdaleとPorterがベルで編成された実際のオーケストラのようなサウンドを駆使している。こうした異なりあう音色が持つ緊張感と開放感は、かつてTeasdaleが好んでいたVangelisスタイルのシンセの発展形のような印象だ。 『Assertion Of A Surrounding Presence』を締めくくる"Cellular Perimeter"では、Lex Lugerによるドラムが壮大な胴体着陸を演出しており、かつてのサウンドに立ち返っている。映画『Blade Runner』的な感覚でリスナーを引き寄せようとしているというよりも、丹念に場面を設定することを念頭に置いている本作において、このトラックが提供する過激なひと時は実に喜ばしい。『Severant』が持つ瞬間的に心を掴むアレンジではないかもしれないが、多くの意味で変化に富んだリッチなサウンドだ。Knivesから発表された1枚目の作品(J. G. Biberkopfによる展開を抑え"がらん"とした「Ecologies」(英語サイト))のように、本作に広がる様々な音が飛び交う回廊と暗く未知なる領域を感じきるには時間が必要だ。しかし、ひとたび方向感覚が掴めれば、あたかも宇宙空間に打ち上げられているような感覚を得ることができるだろう。
  • Tracklist
      A1 Vertical Stack A2 Border State Collapse A3 Boundary Regulation A4 Case Type Classification B1 Eyeless Angel Intervention B2 Event Tracking Across Populated Terrain B3 Cellular Perimeter
RA