FP Oner - 5

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  • RAのWill Lynchが昨年、ニューヨークのプロデューサーFred Peterkinにインタビューした際、彼は次のように語っていた。「俺が大好きなコードというのがいくつかあって、俺が作る曲ほぼ全てに入っているんだ」。なぜ彼は同じコードを繰り返し使い続けるのだろうか? 「このコードを聴くと、何かを感じるからだ。(中略)まるで、様々な方法で、何回も、『アイ・ラブ・ユー』と言っているみたいだ」。Peterkinの音楽を特徴づけているのは、常に新しい形で同じことを表現できる力だ。10年間に渡って発表してきた作品を通じて、彼はムーディーなハウスやテクノを自由に散策してきた。しかし、彼の音楽が持つ基本的な特性(内省性、温もり、誠実さ)は変わらないままである。 近年、Peterkinは『アイ・ラブ・ユー』の伝え方を新たに見つけている。Black Jazz Consortium名義の最新作では、高品質なディープハウスにおける新たな高みに到達し、Fred PとAnomaly名義では、テクノに傾倒した禁欲的なサウンドを取り入れ、FP197名義で最近発表したEP「Raw Trax」では、自身の音楽を原子にまで分解した。『5』はMule MusiqからFP Onerという名前で制作が予定されている三部作の1作目にあたる。そして本作からは、ここしばらくのPeterkin作品の中でもベストプロジェクトに成り得ることが伝わってくる。 『5』を特徴づけている特性のひとつはパーカッションだ。"The Realm of Possibility"や"Platinum Soul"のようなトラックでは、隙間を十分に取ったシンセ要素の周りにコンガやシェイカーによる豊かなタペストリーが織り込まれていく。もうひとつの特性はペース配分だ。Peterkinに長尺の楽曲制作の経験があることは知っているが、今回は特に見事に、じっくりと時間をかけることによる快楽性を実現している。"The Art Of Regeneration"では、3分間のタメをじっくりと作ってから、心が洗われるようなシンセが使われ、優美にスタートする"The Law Of Correspondence"では、中盤にジャジーなアレンジを取り入れることで、残りの7分間に渡ってトラックが持続できるだけのエネルギーが注入される。 "Manifestations Taking Place"や"Visions Of You"において不気味に漂うコードを聞けば分かるように、本作には気になる面もある。78分間に及ぶ『5』から贅肉を削ぎ落とす必要があるとするならば、こうしたトラックが真っ先に削られることになるだろう。しかし、Peterkinが手掛けてきた多くのLPと同様、尺の長さはそれほど問題ではなく、1回聞いただけで理解を求めるような壮大なテーマには思えない。むしろ尺が長いことによって、Peterkinが常に語り続けてきた細かな事柄が代弁されている。しかもそれは、一貫して興味をそそる手法を通じてだ。"Infinite Love"と名付けられたトラックが収録されているが、決して偶然ではないことは明らかだ。Peterkinには伝えるべき愛がふんだんにあるのだ。そして、彼がその行為を止めることはない。
  • Tracklist
      01. In The Mist Of Sunrise 02. Manifestations Taking Place 03. The Art Of Regeneration 04. The Law Of Correspondence 05. The Relm Of Possibility 06. The Otherness Dub 07. Platinum Soul 08. Visions Of You 09. Infinite Love 10. Cycles Of Life 11. Sleepless In Shibuya
RA