Korg - Arp Odyssey

  • Published
    Aug 17, 2015
  • Words
    Resident Advisor
  • Released
    January 2015
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  • オリジナルのARP Odysseyが発売されたのは、コンパクトなポータブルシンセが市場に進出し始めた頃だった。それより遡ること2年、Moogは自社のモジュラーシステムをMinimoogに収めることに成功しており、ARPがこれに倣って生み出したのがOdysseyだった。セミモジュラーシンセARP 2600の後継となるOdysseyは、パッチポイントで自由に接続するモジュラーシステムを外した完全な内部ルーティングになっており、1970年代を通じてMinimoogの直接的なライバルとしてその名を馳せた。OdysseyはARPが倒産した1981年に製造終了となっていたが、今回、Korgが復刻版の開発を発表。そのニュースは期待を生むと同時に、一体どうなるのかという憶測も生み出したが、多くの人たちが気にしていたのは、オリジナルのサウンドにどれだけ近づけるかという点だった。 Korgは今回の復刻版の開発にあたり、いくつかの変更を行っている。回路の多くが既に製造中止となっていたため(フィルターは例外だが)、再設計が必要となり、復刻版ではスルーホール実装ではなく、表面実装となった。しかし、今回の復刻版で一番目立つ変更は、本体のダウンサイジイグ(86%)だ。数字だけ見るとそこまでコンパクトになっていないように思えるが、これは大きな違いを生み出しており、オリジナルよりもスタジオに置きやすく、ライブパフォーマンス時の持ち運びも便利になった(専用セミハードケースが同梱)。このダウンサイジングの短所は鍵盤のサイズだ。ただし、鍵盤が小さくなったことで自分の演奏に影響が出てしまうという人は、不格好にはなるが外部MIDIキーボードを接続することで相殺できる。この短所にどう対応するかは好みの問題と言えるだろう。 オリジナルのAPRは初期型・中期型・後期型の3タイプが存在し、それぞれが微妙に異なるのだが、Korgはこの点に関して、それぞれの良い部分だけを抜き出すことで対応している。例えば、ピッチコントロールに使用するPropotional Pitch Controlは、初期型のロータリーではなく、中・後期型のパッドを選択している。今回のテスト時は、パッドをかなり強く押さなければならず、正確なピッチに調整するのが難しく感じたが、恐らくこれは練習を重ねることで解決されるのだろう。また、オリジナルのフィルターのサウンドは3タイプで大きく異なり、2ポールの初期型はやや薄く、4ポールの中期型はより分厚いMoogタイプで、同じく4ポールの後期型は中期型に似ているものの、より高域のレゾナンスが可能になっているが、復刻版ではこの3タイプすべてが盛り込まれており、スイッチで切り替えることが可能だ。この機能だけでも今回の復刻版は大きな意味があると言えるだろう。他にもサウンドに見事なサチュレーションを与えるDRIVEスイッチやUSB-MIDI端子をはじめ、様々なマイナーチェンジが加えられている。 しかし、Korgが目指していたのは「オリジナルの復刻」であり、そこまで大量の変更は加えられていない。モノかデュオフォニック(2つの鍵盤を押さえた場合、鍵盤1つにつき、オシレーター1基がアサインされる)となっている2基のオシレーターの各波形は、矩形かノコギリの2種類で、共にピッチスライダーでチューニングする必要がある。また、ホワイト/ピンクノイズジェネレーター、リングモジュレーション、オシレーターシンクも備わっている。信号はオシレーターから一般的なローパスフィルターを経由してアンプへと流れていくが、それぞれに一般的なエンベロープとLFOが備わっている。モジュレーションのオプションは多種多様で、オリジナルがMinimoogより勝っていたのはこの部分だ。そして、エンベロープジェネレーター2基、LFO2基(同じ周波数で動作する)、多用途なSample/Holdも備わっている。Sample/Holdはパルス幅やオシレーター周波数、フィルターカットオフ、アンプレベルなどにルーティングすることが可能だ。オシレーターの周波数とパルス幅のモジュレーションは、リングモジュレーションやシンクを使用することで複雑な音色変化を生み出せ、また、エンベロープもキーボードではなくLFOでトリガーできるため、モジュラーシンセのようなシーケンスも生み出せる。Odysseyの素晴らしさが一番良く分かるのは、このようなフレキシビリティと豊富なオプションに接した時だろう。 しかし、Odysseyは自然なパフォーマンスにも適している。パネル上のスライダー群は、ロータリーノブよりもサウンドをダイナミックに変化させたいと思わせるもので、モジュレーションのソースとして使用できるペダル端子や、ポルタメントのオンオフを切り替えるペダル端子も備わっている。また、外部インストゥルメントをフィルターとアンプに入力することも可能で、例えば、このシンセをワウペダルのように使用できる。Odysseyがあれば、鍵盤を使わない他の方法でもパフォーマンスを行いたいと思うはずだ。 このように機能面は見事に再現されたと言えるが、肝心のサウンドはどうだろうか? Korgはオリジナルのサウンドの再現に関して、非常に良い仕事をしたと言って良いだろう。シンク、リングモジュレーション、ホワイトノイズはキレが良く、サウンドにエッジを与えてくれるが、同時にフィルターを閉じた低音は非常に太く温かい。よって、伸びるようなリード、アグレッシブなベース、そして色調豊かなパーカッションなど、良く耳にするサウンドが生み出せる。しかし、最もエキサイティングに感じられるのは、揺れるリングモジュレーションサウンドのような一風変わったサウンドだ。このように幅広いサウンドが生み出せるOdysseyは「便利なシンセ」と呼べるかも知れないが、この言葉ではこのシンセに秘められた魅力を半減させてしまう。 このシンセがオリジナルへ十分な敬意を払いながら復刻された製品であることは明確だが、もう少し新しい機能が追加されていても良かっただろう。オシレーターの波形の追加、MIDI完全対応、チューニングの簡略化などが行われていても良かったし、脆弱なスライダーの再デザインが行われていても良かっただろう。また、ダウンサイジングも意見が分かれる部分だ。とはいえ、他の部分においては堅実な仕事がされており、楽しく演奏できるミュージシャン・フレンドリーなシンセという往年の姿が保たれている。 Ratings: Sound: 4.6 Cost: 3.7 Build: 3.8 Versatility: 4.1 Ease of use: 4.7
RA