Strategy - Noise Tape Self

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  • 多くのミュージシャンは幅広いテイストを持っているが、それをPaul Dickowのように巧みに自分の音楽で表現できている人は少ない。ポートランドのプロデューサーである彼がStrategy名義で生み出すサウンドは簡素な表現に思える時もある。しかし、その音楽が最も素晴らしく体験できるのは、数々のスタイルとアイデアが方向感覚を失ってしまいそうな豊かなひとつの個体へと折り込まれるアルバムにおいてである。先日、Idle HandsからのLP『Seeds Of Paradise』では、アンビエントと酩酊系ダブテクノの世界へと旅立ち、さらにその向こう側にあるサウンドを示唆しているかに思えた。その続編となる本作ではしかし、Dickpowは異なるものに挑んでいる。 『Noise Tape Self』を構成するのは、ほぼ4トラックテープマシンと数種のテープループのみから作られたゆっくりとした動きのアンビエント作品だ。使われている素材に沿ってほとんどの収録曲の名前が付けられており、今回のアプローチが持つシンプリシティを強調している。例えば、"Cassette Loop"なんてトラックはアンビエントミュージックでは最も地味な名前と言っていい。このトラックでは、幽玄なドローンに対しカタカタとした優しい音が規則的に鳴らされている。それはまるでテープがデッキに挿入されている音を聞いているかのようだ。全体に心地よいリバーブがかけられていなければ、この自己言及的な作風には眉をひそめてしまっていたかもしれない。 2008年にEntr'acteから発表されたシングル「Noise Tape Reggae」でも今回と非常によく似たセットアップが用いられていたように、DickowがDIY的手法をハッキリと手放すようなことは決して無かったが、今再び同じ手法で制作を行うことは、過去に対して、特に、この10年の間に彼が歩んできた米国のアンダーグラウンドなエクスペリメンタルシーンに対して、肯定的な態度を取っているように思える。洗い流されるような至福のオープニング、"Awesome Piano"はその経歴を反芻している。もしもこのタイトルが付けられていなければ、ディストーションと立ち昇ってくるディレイによって不明瞭になったサウンドが一体何なのか判断するのは難しくなっていただろう。 昔ながらのアプローチを取っているにも関わらず、その他のトラックではDickowの様々なテイストがきらりと輝いている。例えば、アルバムは中盤にかけてダブの領域へと潜り込んでいく。本作の中ではBasic Channelに一番近いトラックは"Lovely Loop"で、"Ominous Lovely Piano"もそれほど遠くない場所に位置付けられる。シンセパッドのピッチが神経質に揺らぐ"Hobgoblin"は不気味で伏し目がちなトラックだ。一方、"Rhen's Lopp"は、Not Not Funの初期カセット作品としてぴったりの9分間に及ぶドローン作品になっており、他の収録曲と同様、この路線においてもDickowは手際よく取り組んでいる。作品の特性上、『Noise Tape Self』は多くのStrategy作品に比べて軽い仕上りになっているが、見事な繊細さをもって制作されているため、きっと多くの人から好まれるに違いない。
  • Tracklist
      01. Awesome Piano 02. Cassette Loop 03. Ominous Lovely Piano 04. Lovely Loop 05. Hobgoblin 06. Rhen's Loop
RA