Various - No. I

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  • No Wareは2014年の5月にドイツ人プロデューサーのUwe Schmidt(aka Atom TM)とMaterial Objectによってスタートしたレーベルだ。従来のSchmidtどおりのスピードと一貫性により、レーベルはこの12か月間で12インチを3枚と数多くのデジタルリリースを発表してきた。その中にはMax LoderbauerとTobias FreundがNSI.としてコラボレーションした5年ぶりの作品も含まれている。そして、設立者ふたりによるNo. Inc.名義でのコラボレーションは、「豊かなテクスチャーでありながら冷めたキャラクターを持つ若干偏執的でデジタルに構築されたアンビエントサウンド」というレーベルの焦点を反映したものだ。 『No. I』はSchmidtがミックスを、SchmidtとMaterial Objectがエディットを担当したレーベルコンピレーションだ。最初は、高解像度のテクスチャーがじりじりと流れ込み混じり合う75分のミックスという印象で、どこでトラックが繋がり合っているのかを見つけるのが難しい。最初の4曲は、Atom TMが関わった3曲と、チリのRaw Cによる1曲だ。こうした楽曲が今回のようにミックスされると、複雑に処理された広々としたサウンド上に身体を委ねて漂わせ、好きな時にサウンドに浸かることが可能になる。リスナーの意識を集中させることを必要とするようなオープニングではないが、ボリュームを上げると、ローエンドに素晴らしいディテールが姿を現し始める。 所謂ベースラインが最初に登場するのはJacek Sienkiewiczの"Berceuse"だ。深みと儚さを組み合わせたBasic Channelのトラックに似ている。Sagittarius A"Omega Point"のAtom TMによるリミックスでは、よりリズミカルに鳴らされるスタブがミックスの前面に出てくるのだが、そうした時でさえ、ミックスのトップエンドは形を成さない靄のようなテクスチャーで満たされている。こうした二元的アプローチは極めて効果的で、聞いていて同時に二方向に引っ張られているような感覚になる。NSI.による"A.R.T. V"によって最終的に落ち着いたムードはになるのだが、その効果には撹乱させられると同時に驚くほど気分を高揚させられる。 『No. I』で最も鮮烈なのは、作品の結合性だ。1年間かけてリリースしてきた世界中のアーティストによる作品を通じて、Atom TmとMaterial Objectは豊かなでありながら的を絞った美的感覚を保ってきた。今回のサウンドデザインにおける一貫した美が甘ったるくなることは滅多になく、それは、Atom TMの日本公演時におけるライブレコーディングで聞けるリバースさせたピアノサウンドについても同様なのだが、これほど無機質なサウンドのコンテクスト内では、はっきりとピアノだと分かるサウンドは非常に浮いて聞こえてしまう。しかし、続くMaterial Objectがリミックスした"Omega Point"における躍動感のあるメロディックなシーケンスは、まったくもって美しく、今回のミックスにとって理想的な結末となっているだけでなく、アンビエントミュージックが受動的な体験であるという概念に立ち向かっていったレーベルの1年を見事に締めくくっている。
  • Tracklist
      01. Atom TM - No. I 02. Atom TM & Jacek Sienkiewicz - Zero Time Collapsing 03. Raw-C - Ego Split II 04. No. Inc. - Early Reflections (Part II) 05. Jacek Sienkiewicz - Berceuse 06. Steve Law - Ascension Engine 07. Sagittarius A - Omega Point (Delta Shuffle Remix) 08. Sagittarius A - Omega Point 09. NSI. - A.R.T. V 10. Jacek Sienkiewicz - Sto_rys 11. Atom TM + Jacek Sienkiewicz - Zero Time Collapsing 12. Atom TM - Alpha Txt Live at Labyrinth 13. Sagittarius A - Omega Point (Material Object Remix)
RA