Herbert - The Shakes

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  • 「in the battle for it all, there's a boy with a hand and love within」という一節を持ってくるプロデューサーなんてほとんどいないんじゃないだろうか。しかし、Matthew Herbertはこうした言葉を恥ずかしがることも無く堂々と使う。彼のニューアルバム『The Shakes』には、情熱的な告白とインスピレーション溢れる粋狂的な節(「rise to unknown places, love in symmetry」)が満載だ。 そういった調子が、Herbertという名義の周りを漂うイメージを映し出している。2006年の『Scale』以来、Herbert名義は使われてこなかった。解体されたサウンドを使って資本主義から精肉製品や人体内部の働きまで、ありとあらゆる事象に触れてきたキャリアを通じて、ロマンティックなアルバムを制作する時のみ、Herbertは彼の名字を名義として使い、『One Pig』や『Plat Du Jour』といった綿密な実験的作品には、フルネームを使ってきた。小さな差異かもしれないが、この点は、か細く、柔らかで、そして時として、甘ったるい『The Shakes』の背後にもっと寛大な意図があることを示している。 従来とは異なる音源を好むHerbertの姿が『The Shakes』に現れている。抗議デモをサンプリングしたり、"Safety"では使用済みの薬きょうを付かってパーカッションの音を作ったりしている。彼は快楽中枢に直行する豪華なサウンドとの相性が抜群で、『The Shakes』はサウンドのディテールに耳を傾けるだけでも価値がある作品だ。本作のベストトラックには、すべてをひっくるめるような包括的な豊富さがあるが、それは『Scale』のベストトラックに匹敵するほどだ。シンガー、Rahel Debebe-Dessalegneによる粋なボーカルをフィーチャーした"Smart"では、ブラスや、ごろごろと轟くベースライン、そして、若手プロデューサーたちが確実に嫉妬するであろう跳ねたパーカッションがによる乱痴気騒ぎが繰り広げられている。本作で最も魅力的な瞬間が訪れるのは"Even"だ。非常に心地よく沸々とたぎる低域はゆっくりと消え去って行く霧を思わせる。 『Scale』や『Bodily Functions』と同様、Herbertが最も輝くのは、女性ボーカルを取り入れている時だ。Debebe-Dessalegneは、羽のように軽やかにワルツする"Silence"にて、絶妙な魅力を醸すバックグラウンドを提供している。より密度の濃いAde Omotayoの声をアレンジするHerbertは明快さを増しており、威厳のある数々のバラードを生み出している。その内、感情的に最も高まっているのが"Bed"だ。 本作がすべてどこか外れているように聞こえるなら、確かに、その通りだ。2006年の『Scale』は、彼のスタジオ以外にはあり得ない決定的なムードが漂う洗練された作品で、非常に異質だった。そして『The Shakes』では、感情を誇張させたトリックを切り出すHerbertのダンス作品に焦点があてられており、現在の流行からさらに外れて聞こえるのだ。威厳に満ちたラストトラック"Peak"を聞いてみてほしい。性急なテクノパーカッションと膨張するパイプオルガンに、さらに芝居じみたボーカルレイヤーが鮮烈に組み合わされているのだ。こんなことをやっているプロデューサーが他にもいたら、ぜひとも教えてほしいものだ。
  • Tracklist
      01. Battle 02. Middle 03. Strong 04. Smart 05. Stop 06. Ones 07. Bed 08. Know 09. Safety 10. Silence 11. Warm 12. Peak
RA