Moritz Von Oswald Trio - Sounding Lines

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  • Moritz Von Oswald Trioという名前を付けているにも関わらず、彼らがジャズを直接的に参照するようなことは滅多に無い。しかしながら、同バンドはあからさまにではないがジャズの慣行を取り入れている。例えば、何よりもインプロヴィゼーションが重要とされている点や、スタジオワークにおいてマルチトラックではなく、ライブレコーディングが優先されている点だ。そして最近のアルバムでは、コアメンバーであるVon Oswald、Max Loderbauer、Sasu Ripatti(aka Vladislav Dilay)に加えて、数名の演奏者をフィーチャーしており、メンバー構成も流動的である。メンバーの流動性は『Sounding Lines』でも継続されており、Ripattiに代わってアフロビートのレジェンド、Tony Allenが参加している。今回のメンバー交代によりそのサウンドも劇的に変化しているのだが、完全にいい方向に変化しているとは言えないようだ。 アルバムのミキシングを担当したのはRicardo Villalobosだ。そして、意図したものであるかどうかは分からないが、最も作品上に表出しているのはVillalobosの影響である。Ripatti自身が制作したパーカッションの深みのある響きや、ダブとバンドを結び付けていた豊かな残響が漂う空間は本作では消え去っている。その代わりにリスナーが耳にするのは、超絶的に正確で乾いたミニマリズムだ。1曲目に収録されているのは10分間に渡るのっしりとしたテクノで、Allenによる見事なスネアワークが時計のように正確に刻まれるテンポに絡み合っている。鮮烈な不協和音もいくつか用いられているが、本作の多くの部分でもそうであるように、ほとんど知覚できない低いレベルでミックスされている。 今回、真っ向から焦点があてられているのはリズムだ。6曲目では、弾力性のある数種のシンセループが正確に時を刻む中、Allenが弾き出すリズムが宙を舞っている。7曲目のクラビネットのようなリード音はファンクからの影響を思わせる。それはさらさらの粉状になるまで水分を蒸発させたファンクであり、一見、無感情かつ無害に思えるのだが、実際は非常に強力だ。両トラックは共にヒプノティックに仕上がっているが、それ以外のトラックはどれも抑制的なアレンジのために味わい無く感じられてしまう。Allenによるビートを柔らかなコードスタブに組み合わせた3曲目では、トラックの勢いがゆっくりと滴り落ちてしまい、残されるのは縺れ合った塊だけだ。他のトラックにも共通していることだが、Von Oswaldたちがどこに向かおうとしているのかハッキリとしていない。この手の素材を削ぎ落とした音楽では、今回のような方向性の定まりの無さは致命的になり得るのである。 別作品であるかのような鮮烈さを感じさせる場面もある。例えば、8曲目のオープニングにおける燻っているような和音や、ダビーな4曲目におけるディレイエフェクトが生み出す迷宮の中で鋭く刻まれるAllenのドラミングなどだ。特に後者はドラムと電子音をしっかりと結び付けるという珍しい試みだ。しかし、それ以外では各サウンドがバラバラになり過ぎている印象を受けることが多い。まるで、空気の無い奇妙な部屋で戦い合う兵士のようだ。
  • Tracklist
      01. 1 02. 2 03. 3 04. 4 05. 5 (Spectre) 06. 6 07. 7 08. 8
RA