Jamie xx - In Colour

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  • Jamie Smith(Jamix xx)のデビューアルバム『In Colour』が発売される前に話題の中心になっていたのは"I Know There's Gonna Be 'Good Times)"だった。Young Thugによる溌剌としたラップとダンスホールシンガーPopcaanのコーラスを組み合わせた中毒性のあるアップビートなトラックだ。このバウンシーなサマータイムソングはおそらく、The xxのメンバーである彼がソロキャリアで発表してきた中でもベストだと言えるだろう。『In Colour』に対する期待を高めることになったトラックだったが、どうやらそれはまぐれ当たりだったようだ。というのも、本作に収録されたトラックのほとんどは"Far Nearer"以降、Smithが制作してきた準ダンスミュージックに落ち着いているからだ。 "All Under One Roof Raving"のような楽曲を聴けば明らかなように、Smithは黎明期のUK産ダンスミュージックに専念している。そして『In Colour』の大部分は修正主義的な視点と明らかにセンチメンタルな視点を通じてレイヴの歴史を見つめ直している。"Gosh"と"Hold Tight"を聴いただけでは(どちらのトラックもレイヴでお決まりのMCの声を使用している)、ハードコアやジャングルには闘志やソウル、エッジというものが一切無いように感じてしまうだろう。Smithは、まるでチェックリストを使っているかのようにトラックを組み立てている。馴染みのある要素を単に組み合せているだけで、そうした要素をどうやって機能させるのかは理解していないような印象なのだ。彼のレイヴに対するトリビュートはクラシックなロックの楽曲を安っぽいバージョンでうるさく再生するHallmarkのグリーティングカードと変わりがない。"The Rest Is Noise"や、スティールドラムによるデイドリーム"Obvs"(セルフパロディにさえ感じてしまう)のように、下らないトラックを抜きにしたとしても、それは同じだ。 ゲストアーティストたちと一緒に制作している時の方が、Smithは調子が良いようだ。Young ThugとPopcaanに加え、The xxのメンバーであるOliver Simが参加したことは喜ばしい。彼の声とギターにより、"Stranger In A Room"はシーケンサーを使ったThe xxと言える楽曲となっており、なかなか悪くない。"SeeSaw"では、電子音が泡立つ空間の中、自分の恋人が親友と付き合うことになってしまった失恋話をRomy Madely-Croftが回想している。"SeeSaw"はプロデューサーとボーカリストが強力に一体となったトラックだ。Madley-Croftが回想する瞬間的な思い出は、Smithが調理した印象派的なバックトラックに見事に組み合わされている。このトラックの仕上がりは、Smithは感傷的なレイヴサウンドを作るだけの存在ではなく、彼がモダンロックシーンにおける最も個性的なバンドのメンバーであることを思い出させてくれる。 『In Colour』のもうひとつの聴きどころである"Loud Places"にもMadley-Croftは登場している。このトラックはThe xxが普段奏でているような孤独なクラブトラックだ。"SeeSaw"と同様、Madley-Croftの琴線に触れるパフォーマンスがトラックを包み込んでいるが、Smithはそこへラウドで力強いIdris Muhammadのサンプルを積み重ねてコーラスを生み出していく。この構成はとても面白い。熱狂的なボーカルが動と静の空間が生み出す楽曲のコントラストをしっかりと保ちながら、Madely-Croftのパフォーマンスから絶妙な要素を引き出している。しかし、Smithのソロ作品全般にも付きまとう問題が"Loud Places"を台無しにしてしまっている。彼のダンスミュージックに対するアプローチは、同世代のアーティストと比べるとよりロマンティックで暖かみがあるのかもしれないが、そうした特性があるからといって緻密性やニュアンスの素晴らしさを保証する訳ではない。むしろ、今回の彼の音楽は心に突き刺さるには柔らか過ぎ、誠実だと感じるには不自然過ぎるのだ。 そしてリスナーが聴くことになるのは、意図したよりも深みが無ければ、意義が感じられることもないクオリティにバラつきのあるアルバムだ。レイヴに対するノスタルジアという『In Colour』の核を成す要素は触れた瞬間に消え去ってしまう。もし、本作が単なる感傷的なトリビュートというだけではなく何かしら鮮烈でユニークな要素が加えられていたとすれば、全く違う作品になっていただろう。しかし、Smithはお約束的なサウンドを鳴らしただけで満足してしまっているような印象だ。Smithは既存の文脈に何かを加えるのではなく、独特の方法で再提示するアーティストだと常々思っている。『In Colour』を聴いてもその考えは変わらない。
  • Tracklist
      01. Gosh 02. Sleep Sound 03. SeeSaw feat. Romy 04. Obvs 05. Just Saying 06. Stranger In A Room feat. Oliver Sim 07. Hold Tight 08. Loud Places feat. Romy 09. I Know There’s Gonna Be (Good Times) feat. Young Thug & Popcaan 10. The Rest Is Noise 11. Girl
RA