Scuba - Claustrophobia

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  • この数年間、Paul Roseはビッグアーティストになることに集中し、実際にビッグになった。今やScubaと言えば、テクノ界で最も有名なアーティストのひとりであり、イビザでレギュラーを務める存在だ。しかし、ある意味、彼は自分のファンを試しているようにも見え、"Hardbody"(英語サイト)や"The Hope"といった大バコトラックを恥じることなく発表するなど、彼の音楽は一般層が喜びそうなクラブミュージックを扱うようになっていった。彼はBerghainでジャンル越境型イベントSub:stanceを主催していたが、イベントが終了する2014年までの間に彼のDJセットからはそうした特性が既に失なわれていた。昨年、EP「Phenix」をリリースした頃に病気を患い、夏に予定されていた公演(イビザも含む)をキャンセルしなければならなくなったRoseだったが、それから数カ月が過ぎた今、『Claustrophobia』と共に帰還を果たす。本作はもしかすると彼のキャリアで最もダークなレコードかもしれない。 ダブステップを作成していた頃のRoseが頂点を極めたアルバム『Triangulation』(英語サイト)。本作はこのアルバムにおける残響空間と迫力のドラムサウンドに再び立ち返っている。金属的なディレイ、スタジアムサイズのリバーブ、底無しのブレイクなど、彼の手で作り上げてきたシンプルなアレンジが本作では全開に施され、酩酊感のあるトビを実現している。2015年現在のRoseはかつてのようなアーティストではないが、一曲目"Levitation"のインダストリアルな振動や、"Why You Feel So Low"のピストン仕掛けのドラムを聴けば、Scubaファンなら即座に懐かしさを覚えるだろう。 "Drift"はRoseのベストワークに匹敵する。金属がぶつかり合っているようなビート上を豪華なシンセが溢れんばかりに飛び交う素敵な変化球トラックだ。"All I Think About Is Death"はタイトル通り(考えることは死ぬことばかり、の意)感傷的で、天使のようなボーカル、思わせぶりな沈黙、そして、澄み切ったサウンドエフェクトには、アイマックス環境で視聴しているかのような壮大で現代的なクオリティがある。どちらのトラックもRoseのメロディアスな一面にスポットを当てているが、そこからは"Adrenalin"時代以前のポーカーフェースな態度が感じられる。 他の収録曲では、かつてRoseがSCB名義用に録り溜めていたようなトラックモノを聴くことができる。このストレートなテクノアプローチは完ぺきとは言えず、"PCP"と"Television"に至ってはRoseが寝ている間に作ったのではないかと思いたくなる。しかし、展開作りにおける彼のセンスは決して失われておらず、どのトラックにもブレイクを盛り込んだり、リズムを変化させていたりとリスナーの意識を掴んで離さない。 これまで、Roseは自身のインスピレーションに従ってダブステップを通じてテクノへ、そして、その向こう側の領域へと活動を展開してきた。その結果、自分がどんな行く末をたどるのか不確かであったとしてもだ。今回の彼は新たに何かを試すのではなく、自分が得意としているものに焦点をあてており、『Claustrophobia』は前に進むというよりも横方向の動きを見せている。本作におけるRoseは自分の制作がピークを迎えていた頃の輝きを再び取り戻そうとしているように見えるのだ。『Claustrophobia』の一部では、かつての輝きを見せる彼の姿を感じることができる。
  • Tracklist
      01. Levitation 02. Why You Feel So Low 03. Television 04. Drift 05. PCP 06. All I Think About Is Death 07. Needle Phobia 08. Family Entertainment 09. Black On Black 10. Transience
RA