Donor - Against All

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  • 音楽制作を始めた2003年から現在に至るまで、Donorの根幹となる姿勢は変わっていない。現在、日中に仕事を行いながらブルックリンを拠点に音楽制作を行っているアメリカ人プロデューサーDonorだが、彼が初めてターンテーブルを手に入れたのは1997年、バルセロナに住んでいた時のことだ。当時の彼にもっぱら影響を与えていたのはバーミンガムやデトロイトから生み出されるテクノだった。そして、実際に彼が楽曲制作を始めたのは2003年のことで、再びアメリカを離れて東京で生活を送っている時だった。2年半という月日を東京で過ごす間、Maniac Love、Liquidroom、Yellowで開催されていたテクノパーティからインスピレーションを得ながら制作を行っていたDonorが、自身の楽曲を発表するために選んだのはネットレーベルという手段だった。彼と共にアメリカから東京にやって来ていたBob RogueとスタートさせたネットレーベルMinisculeは、テクノにおいて最も重要なのは「進化」であることをモットーに、音楽的挑戦を行うプラットフォームとして新たなサウンドの在り方を目指し実験を繰り返してきた。後の盟友となるTruss(彼はTesselaの10歳年上の兄である)と出会うのもMinisculeを通じてのことだ。しばらくは、Donor / Trussとしてリリース重ねてきた2人だったが、近年では、ソロ活動の比重が増えており、DonorはStroboscopic ArtefactsやSemanticaといったレーベルから数枚のソロEPを発表し、荒涼としたミニマルサウンドを展開している。そんな彼が、遂に初のアルバムとなる『Against All』を発表した。本作は彼の活動初期から脈々と続く実験精神の集大成だ。 このアルバムにはSurgeonからPercへと続くインダストリアルテクノの殺伐とした空気が漂っている。ハンマービートを極限まで削ぎ落として不規則に打ち込んだタイトなグルーヴが秀逸な"Menace Is Mine"と"Counter"は、いたずらにディストーションサウンドを使うのではなく、ピッチダウンによってテクスチャーを生々しく際立たせた音素材を適確に配置することで面白いうねりを生み出している。"Calling"、"Station A14"、そして、"Fault Is Found"は、16分で刻まれる粘り気のある音素材が中域から低域にかけての帯域で形成されるグルーヴと、アタックの強いキックの打ち込み具合が面白い非4つ打ちトラックだ。いわゆるインダストリアル的な激しく歪んだ音を使っている訳ではないし、音数も非常に少ないのだが、根底の部分で共通する空気が生まれているのは、Donorが音楽の核を捉えているからに他ならない。Rhythm & Soundが異なる音素材を使っていながらWackiesなどのダブ作品と通じているのもそのためだ。 本作は、ほぼTR909とフィールドレコーディングによる素材のみを加工することで制作されている。この手法は2010年にStroboscopic Artefactsから発表した「Monad II」の頃から既に始められているが、機材/素材を限定することで生まれるミニマル性や、少ない音数であるが故に剥き出しとなる誤魔化しの効かない音の輪郭は、現在に至るまでの年月をかけてますます研ぎ澄まされてきているようだ。Donorがこれまで培ってきた経験によって、活動当初から掲げる「進化」の信念を最も高い完成度で具現化させたのが『Against All』だ。彼の次なる進化を楽しみにしたい。
  • Tracklist
      A1 Hands On A2 Calling A3 Menace Is Mine B1 Station A14 B2 IP Test C1 Counter C2 Us For Them D1 Fault Is Found D1 Own Exile D3 In Your Place
RA