Taicoclub '15

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  • Taicoclubは、日本の音楽シーンのカレンダーにおいて特別な位置を占めている。毎年夏の初めに開催される大型フェスティバルであるTaicoclubは、国内のフェスティバルシーズンの幕開けを告げる存在としての役割を、毎年安定の内容でしっかりと果たしている。同フェスティバルが高い評価を得ているのには様々な理由があるが、その中でも際立った理由が2つある。まずはその長さだ。開催時間が24時間にも満たない為(土曜日の午後2時にスタート、その後夜通し音は鳴り続け、翌日の昼飯時にゆっくりと幕を閉じる)、例えばFuji RockやLabyrinthといった、3日間以上を要するフェスへの参加は躊躇してしまうような人でも、気兼ねなく参加できるのだ。ジブリ作品にでも出てきそうな、長野県木曽郡の山中にあるキャンプ場、こだまの森を会場としており、東京から車あるいは電車でほんの数時間というアクセスの容易さにも人気の理由がある。例えば、雨ガッパ以外はほぼ何も持たず、睡眠は木の下で数時間取るだけという過ごし方も可能だろう。実際には、キャンプ慣れしていて、1週間は持つであろう万全の装備で参加する人が大勢いるのだが。 Taicoclubの成功の2つ目の理由は、そのラインナップの一貫性だ。毎年間違いない内容で、ひょっとしたら国内の多くの音楽フェスティバルがお手本にしているのではないかというほど、我々の期待通りのブッキングをしてくれる。ベテラン・セレクターMoodmanや、メインステージのうちの1つのアフターアワーズを務めるイギリス出身のレコード・ディガーNick the Recordといったお馴染みのメンツに加え、国内アーティストと世界各地のテクノシーンにおけるビッグネームを織り交ぜたラインナップがローテーション方式で登場する。今年はWarpの看板アーティストClarkが再登場した。テクスチャーたっぷりでアナログ機材を駆使した彼のライブセットは、彼の最近の作品とは趣向が異なるものの、素晴らしいとしか言いようがなかった。また、Abletonの共同開発者であるRobert HenkeがMonolake名義で出演。この日もそうだったのだが、最近の彼のパフォーマンスにはヴィジュアル要素が無いようだ(結果として、いささかインパクトに欠けるように感じてしまった)。そして、IDMのパイオニアAutechreもまたカムバックを果たした。 マンチェスター出身のデュオAutechreは、全出演者の中でも最も出演が待ち望まれていたアクトの1組であった。特設ステージ全体とその周辺を漆黒の闇へと変える(最悪のタイミングで用を足さなければならない人の為に仮設トイレだけは照明をつけたままだった)という芝居がかったオープニングは、寒さと激しく降り始めた山の雨と闘う観客の期待を煽るばかりだった。しかし実際の彼らのセットはというと、最初の勢いに乗り切れていなかったように感じた。システムから鳴り響くサウンドのクリアさとクオリティは、サウンドデザインの最先端を追求したAutechreのパフォーマンスを充分に感じられたものの、わかりやすい起伏がない挑戦的なセットを十分に成立させるためには、少しパワーと重みに欠けていたようだ。パフォーマンスが終わり、照明が再び上がった頃には、ダンスフロアにいた観客の数もまばらになってしまっていた。 しかし実際は、参加者のおよそ半分が丘の上のもう1つのステージにいたのにも関わらず、その大きなダンスフロアが埋まらないことはほとんどなかった。そのもう1つのステージ、野外音楽堂には、Taicoclubの常連である大阪のジャズバンドEgo-Wrappin'や3人組バンドClammbon、テクノの重鎮、石野卓球らが出演。フェスへの出演経験豊富な彼らは皆、特設ステージに出演していたMarcel DettmannやSvrecaといったポーカーフェイスの4つ打ちアクトよりも、ずっと陽気な雰囲気のフロアを作り出した。野外音楽堂のラインナップはこういった国内アーティストが中心だったが、緑に囲まれた、よりチルアウトなこのステージでは、海外アクトが登場した際にも大きな盛り上がりを見せた。特に夕方に登場したRobert Glasper。多種多様な楽器によるジャズやエレクトロニカ、R&Bの要素を包括した素晴らしいパフォーマンスでは、個々のパートを併せた以上の力が発揮されていた。 もちろん、メインステージのエレクトロニックアクトが皆、残念に思うプレイだったというわけではない。4ADのSohnは、ライブセットはラップトップとiPadがなくても成り立つということを思い出させてくれた。彼はたくさんのキーボードと共にステージに登場し、バックステージには、デビューアルバム『Tremors』でも披露した、シンセとヴォーカルで複雑に構成されたマルチレイヤーの音楽をライブで再現するクルーが控えていた。一方、テキサスでツアー用の機材が盗難の被害に合ったばかりのL.A.のビートメイカーNosaj Thingは、ラップトップとiPadだけでどれだけのことができるのかを実践し、国内のヴィジュアルアートのパイオニアである真鍋大度との素晴らしいコラボレーションによって、現在のオーディオヴィジュアル・テクノロジーの限界を見せてくれた。Rhizomatiksの創設者である真鍋と彼のクルーは、機材設置の為に1週間前から現場入りしていたようで、その結果は大成功。 10台のカメラと3台のXbox Kinectをステージ上に張り巡らせた状態で、真鍋はNosaj Thingのパフォーマンスをあらゆる角度から記録し、それぞれのアングレスをシームレスに配信しながら、更にデジタルエフェクトを加え、正にマルチメディアでマルチセンサリーなステージを創り上げた。 2つの大きなステージに挟まれた空間にもまた、注目の見物があった。Red Bull Music Academyは、国内各地の最もエキサイティングなアンダーグラウンドアーティストをブッキングしていた。その小さなステージには、アンビエント・プロデューサーYosi Horikawaや、大阪拠点のエレクトロニック・ミュージシャンRyo Murakami、Diskotopiaの創設者A Taut Lineらが出演。更に、Boredomsだけのためのステージまでが出現。ただ、数年前のFreedommuneでは91人のパーカッショニストによる演奏が披露されたが、今回は5人のドラマーだけであった。総じて見ると、やりすぎだと言いたくなるほどたくさんのことがあった。超豪華なラインナップは、他のどんな3日間のフェスよりも抗議したくなるほど見たいアクトが被りまくりだった。それが、Taicoclub最大の強みであると同時に、弱みでもあるのかもしれない。
RA