Haruka x KABUTO at LAIR

  • Share
  • 千葉で産声を上げたFuture Terrorの黎明期を支えたKABUTOが、都内に拠点を移して以来オーガナイズを続ける長寿パーティーLAIR。8年目を迎え、2015年初開催となる今回は、現Future TerrorにおいてDJ Nobuに次ぐ代表格となったHarukaを招致した。パーティー内での共演はこれまでにあったものの、2人でじっくりと一夜を創りあげる貴重な機会ということもあり、待ち遠しい日の一つであった。開催地のGrassrootsは30名も入れば身動きがとりにくくなってしまうようなバー程度の規模でありながら、ハウス、テクノのみならずディスコ、ロック、ダブなどが混然一体となった独自的なシーンの礎となった東高円寺の名店。自由度が高いからこそ、最もDJの力量が試される空間でもあるのだ。 スタートから一時間ほど経った頃に到着すると、扉の向こうから賑やかかつ怪しげなざわつきと、対照的な淀みないディープハウスが聞こえてきた。すでにキャパシティの半分は埋まっていたものの、この時点では語らいを目的とした人が多かった印象だ。しかし1~2時間ほど経つと、ほとんどの人が店内に響く音楽に惹かれるようになっていた。廃品を利用した、緻密で宇宙的なデコレーションも独特の空気感を創り出している。中型のスピーカーが2つ置かれただけのシンプルなシステムの特性に合わせ、KABUTOは浮遊感あるフレーズと中高域のリズムが映えるハウス、テクノをプレイ。選曲はGeminiやRoman FlugelといったクラシックからRiccardoといった新鋭まで幅広く、現在のシーンを意識しつつも「誰かっぽさ」は感じさせない確固たるアイデンティティを持っていることがわかる。 続いて、この日のゲストとなるHarukaは宇宙的な感覚を根底に持つ、瞑想的なテクノを展開。空間的でディープな構成を軸としつつ、エレクトロ的な非四つ打ちもアクセントに、普段のメインフロア向けのタフで直線的なセットとはまた違った表現を見せていた。一方で、この日の空気感に馴染むまではやや落ち着いた雰囲気になっていたが、変化を受け入れる緩いムードもこの日は一貫して感じられた。 この日2度目のKABUTOのセットも、やはり地に足の着いた、都市的で、かつエモーショナルなトラックを中心にプレイ。Morgan Geistが手掛けたEnvironの初期リリースなど、トリッキーな展開を持つ楽曲も交えた飽きさせない構成で、この日一番オーディエンスの勢いを感じられた時間となった。Harukaも彼の特色とも言えるシリアスさもキープしつつ、より走らせたリズムと、遊び心も感じさせるエフェクティブなテクノで流れを引き継ぐ。夜明けを迎え、パーティーも収束に向かうと思いきや、別の場所から流れてきた人々が新たな活気をもたらしていた。これに応えるように、KABUTOは所謂アッパーさとは違った選曲で高揚感を感じさせる。近年のUKを中心としたブレイクビーツ的なアプローチや、KABUTOのルーツであり最大の武器でもあるUSハウスも交え、展開を繰り返していくような構成で小休止から復活したダンサーも刺激されていたようだ。 Harukaはもちろん、KABUTOは特に「レコードが続く限りDJを行える」DJだ。ただ、その力が最も発揮されるのは、この日のように追従するオーディエンスがいてこそではないかと思う。「終了です!」と最初にKABUTOが告げてから1時間以上続いたのも、パーティーに向けた観衆の興奮を掴んでいたからこそだろう(LAIRでは決して珍しいことではないが)。KABUTOにとってはいわばホーム戦、Harukaにとっても慣れ親しんだブースだからこそ実現したリラックス感があり、オーディエンスとの距離感も相まってパーソナルなDJセットを楽しむことができた。 Grassrootsの立地は決して気軽に行きやすいとは言えないが、クラブカルチャーの中心地から離れているからこそ、ふらっと立ち寄る常連に加え、パーティーに明確な目的意識を持って来た人が多かったように感じた。ハシゴで寄るには難しい分、音楽と空間への集中が生み出すムードが生み出されるのだろう。一方先述したように、朝方、他店から流れて来る人々によって盛りあがる場面もあり、着地点としてのGrassrootsとLAIRに対する信頼度の高さも伺えた。一つひとつのパーティーのカラーが感じられなくなっている都内のシーンにおいて、現在も明確かつシンプルなコンセプトと、他では味わえない体験を保証するクオリティを持つLAIRの価値はより高まっていくだろう。
RA