The Star Festival 2015

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  • 京都駅から出発して1時間足らずで、車窓からの眺めは霧深い山中へと変わっていく。そこからバスでさらなる奥地へ向かうと、やっとThe Star Festivalの開催地スチールの森に到着だ。土曜の早朝は雨に見舞われてしまったようで、ステージ前のフロアとなる場所は不安定なぬかるみとなっていたが、歩き回るにも一苦労といった状況も興奮に変えてしまうような熱気と勢いを、踊る人々から感じられた。自由な雰囲気のコミューンというのが、個人的な第一印象だ。 筆者がステージへたどり着くと同時に、Sebastian Mullaert & Ulf Erikssonが登場。DJ+ライブといった構成で、滑らかなビートと有機的なベースラインが印象的。後半はアシッド感あるフレーズで攻め立てており、Kontra-Musik、Minilogue双方で培われたセンスと経験が存分に注ぎ込まれていた。 少々のセット替えを終えると、Fumiya TanakaによるDJがスタート。近年のリリースから感じられる、研ぎ澄まされたディープなスタイルとはまた違った趣向を見せ、Cajualなどの’90年代シカゴハウスや、フレンチハウスのクラシック的な楽曲も交え、集まるオーディエンスをさらなる熱狂の渦に巻き込む色彩感のある選曲であった。続くPerlonの総帥Zipは勢いを継ぎつつも、よりシンプルなグルーヴに再構築するようなスタート。ミニマルな展開ながら、ベースやリズムのシャッフル感、ヒプノティックなメロディなど各楽曲の肝となる部分を見出し、ミックスによって更なるフォーカスを当てるようなDJだ。周囲が夕闇に包まれると同時に、マッドなヴォーカルが印象的な自らのものと思しきトラックをプレイ、あふれんばかりの笑顔と共に圧巻のDJセットを終えた。 2日目のメインステージを締めくくるのはSquarepusherによるライブ。自身と後方スクリーンに別々の映像を映し出し、彼のシグネイチャーとも言える高速ビートを以て、畳み掛けるような急展開を見せる。視覚、聴覚ともにすさまじい情報量であったため、これまでのDJ・ライブとのギャップも少なからず感じてしまった。中盤以降はベースソロやバンドサウンドによる彼のもう一つの側面も披露し、キャリアを総括するようなセットで観衆を圧倒した。 この日のアクトはこれで終わりではなかった。メインステージが最終日に向けて調整される裏で、後方の小規模なブースにてZipとFumiya TanakaのB2Bが始まっていた。ブース前には寒さを感じさせない熱気あふれるオーディエンスたちが集結。サウンドはやや控えめな音量ではあったが、そこに合わせるようにブロークンビーツ的な楽曲からスタートし、中高域の展開で体が反応するようなミニマルへと移行。両者ともに先刻の選曲とは全く異なっており、改めて彼らのキャリアと引き出しの多さを思い知らされる。しかし夜の冷え込みも厳しく、筆者自身は明日の朝に向けてしばし休憩。その間もB2Bを聴き続けた友人曰く、朝方にはZipが主導し、USディープハウスを軸としたエモーショナルな展開もあったようだ。一つのパーティーにも匹敵するロングプレイを完遂した、圧倒的なタフさには驚かざるを得ない。 朝を迎えてみると、前日の霞がかった世界とは打って変わって、遮る物なく陽の光が降り注ぐ光景に一安心。最終日の一番手はKenji Takimi。ビートのない楽曲から緩やかなビートダウンまで、徐々にテンポを速めながらフロアの空気を刷新していく。いずれも氏の幅広い音楽嗜好を反映した、ディスコ、ロック、ダブといった縛りのない展開を楽しめた。続いてバトンが渡されたのはAxel Boman。アナログな質感のビートと、Pampaクルーの一員らしいユニークかつ繊細なフレーズを主軸としたDJであった。トラック同士のテンションの差異を用いて波を作るような展開で、強まる日差しとともにさらなる活気をオーディエンスにもたらしていた。Lawrenceは流れを引き継ぎつつ持続するグルーヴ感を盛り込んでいく。低域の重心がしっかりとキープされているからこそ、穏やかな波のようなフレーズも映えるようだ。終盤は自らの楽曲とともにMarshall JeffersonやNu Grooveといった彼のルーツ的な名盤をプレイする瞬間も。レーベルや活動するフィールドが近いこともあり、この日のタイムテーブルは各々の個性も出つつ、一つの統一感ある音の流れを楽しむことができた。 昼も過ぎ、満を持してThe Star Festival 2015のラストアクトDJ Kozeが登壇すると、この二日間の中でもさらに開放感あふれるテンションを見せるオーディエンスがフロアに押し寄せた。グルーヴに芯を通しつつも、追うごとにえぐみのある展開のシーケンスや、彼らしいスティールパンの音色など、独自の世界観に迷い込ませるような選曲。MJネタといった個性的なサウンドも用いつつ、方向性のブレを感じさせないセットは、締めくくりにふさわしい完成度であった。終盤、陽が落ちる最後の光に照らされながら、KozeはAwesome Tapes From Africaからリリースされたロウで快活なヴォーカルトラックをプレイ。風に乗るしゃぼん玉に囲まれた、夢心地な瞬間は忘れられないものとなった。 いずれの時間でも人々からフリーキーかつ前のめりなエネルギーを感じられたのだが、それはコアなエレクトロニックミュージック・ファンだけでなく、フェスやアウトドア好きなど、屋外という環境で音楽を楽しみに来た幅広い層のオーディエンスも多かったため、開放的なムードが形作られていたようだ。キャンプサイトではテント同士に充分な間隔をもって各々場所が確保され、居心地はすこぶる良かった。それでいて、広大なキャンプサイトはほぼ満遍なく使用されており、集まる人々ひとり一人の意識によって快適な空間が成立していた。もちろん、その原動力として良質な音楽が常にあり、また、オープンエアでの開催にして今年で4回目を迎える運営人の経験とより良いものを目指そうとする姿勢がThe Star Festivalを成功に導いたことは間違いない。週末限りのユートピアの一員として、そこに参加した者皆でパーティーを創りあげているのだと心底実感させられた今回の体験は、なかなか味わえるものではないだろう。
RA