Akiko Kiyama - Newmud

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  • 先日のインタビューでAkiko Kiyamaが語っているように、彼女が2011年にリリースした『Doublethink』は、テクノアーティストとして活動する自分と、テクノ以外の作品を作ろうとする自分、という相容れない2つの要素を肯定的に捉えた作品だ。そして、その翌年に続いた『Deviation』には、そのタイトル(通常とは異なっていること、という意)が示唆している通り、周囲のスタンダードに合わせるのではなく、自身の異質な特性を活かしてダンスミュージックを制作しようとする彼女の姿が映し出されていた。その結果は、少しつんのめるようないびつなビート上に、シンセ音からサンプリング音まで色彩豊かな音色を散りばめるという彼女の特徴が、以前に増して力強く打ち出された点に表れている。そうして、彼女の異質性を肯定した末に辿り着いたのが、デビューから10年という節目に設立されたレーベルKebko Musicというわけだ。レーベル第一弾となるカセットテープ・シングル「Newmud」は、前述の異質な感覚をダンスフロア以外の領域に発展させた意欲作だ。音素材そのものが持つ生成りの響きに焦点を当てながら組み合わせていくことで、これまでの彼女の作品からも感じられた、どこか不可思議な世界観がより全面に押し出された内容になっている。 ”Newmud”では、ゆっくりと減衰していく重低域の塊や、坦々と3拍子を刻むタムの他、リバーブといった音素材に対するプロセッシングなど、彼女がこれまで培ってきたエレクトロニックミュージックの手法を用いながら、1つの別世界が鼓動する模様を描き出している。Akiko Kiyamaというフィルターを通して次々と張り付けられていくサウンドは、見たこともない奇怪な植物のように芽を出したり、奇妙な顔をした生き物のように宙を漂っていたりする。“Newmud”と”Tender”は、そんなワンダーランドの住人Lisokotが不思議な鼻歌を口ずさむ日常のワンシーンを垣間見ているかのようでもあり、非常にシネマティックだ。ダンスミュージックで定番のリズムである4つ打ちキックと裏打ちハイハットが組まれ、比較的ループ主体のビートとなっている”Futureclock”においても、その焦点はフロアにではなく、1つ1つの要素が持つ純朴な響きにあてられている。1曲目の”Newmud”が本作に広がる不思議の世界に誘うトラックであるとするならば、ラストの”Time To Time”は、秒針が時を刻む音が使われており、作品の終了と共に現実世界の時間軸に戻っていることを暗示しているように思えてくるのだが、こうした作品単位で物語性は、過去のAkiko Kiyama作品では感じられなかったことだ。 臆することなく、これまでとは異なる領域に足を踏み入れた彼女を投影した「Newmud」は、レーベルのマニフェストを示すのに十分な作品となっている。
  • Tracklist
      A1 Newmud A2 Tender (featuring Lisokot) B1 12 Steps B2 Future Clock B3 Time To Time
RA