Chaos at Liquidroom

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  • クラブシーンの本流からやや離れた東京でも、週末の夜は常に選択肢で溢れている。年末の時期ともなると、魅力的なパーティーがひしめき合っている。そんな中で今年最後となるCHAOSがLIQUIDROOMにて開催された。主催するFumiya Tanakaを含む出演者の音楽性もあり、ディープな印象が強いパーティーではあるが、その実はテクノ・ハウスの幅広いグルーヴが、一貫した方向性の中で鳴らされている。類似した曲を並べるだけのものとは一味もふた味も違う、濃厚な体験が待ち受けている。 Fumiya Tanakaのオープンセットは低域から中低域のうねるような展開を途切れさせず、沈むようなディープさではなく、疾走感あるビートでフロアを温める。時代とともに徐々にスタイルを変化させてきたFumiya Tanakaだが、ミニマルにもハウスにも寄りすぎず、アブストラクトで突き進むような彼らしさは健在。硬質でツール的な楽曲を中心に展開するからこそ、Herbert “Audience”の切なげなフレーズもひときわ映える。序盤はほとんどの来場者がフロアに集まるのもCHAOSならでは。LIQUIDROOMに場所を移して以来、その傾向はより強まったようにも思える。楽しむことへの貪欲な姿勢が、このパーティーのクオリティを支えているのだと改めて感じた。 Fumiya Tanakaのセットから音を止めることなく、緩やかにAkiko Kiyamaのライブがスタート。長年ヨーロッパを拠点としながら、シーンの最前線とは常に一歩距離を置きつつ、独自の存在感を放つアーティストだ。這い回るような重たいベースと催眠的なフレーズ、そして独特なアクセントで刻まれる、つんのめるようなビート。いずれも彼女の象徴といえるサウンドだろう。玩具を散らしたような不気味でユーモラスな世界観は、音のディテールがしっかりと反映するサウンドシステムによってさらに強調されていた。いわゆるテクノのイメージとはかけ離れているものの、やはりテクノとしか言いようがない。 二人目のゲストはSammy Dee。Fumiya Tanakaもリリースする名門レーベルPerlonをZipらと主宰し、近年はより若い世代のアーティストにフォーカスしたレーベルUltrastretchを始動。CHAOSを含め、日本でも数々のパーティーに出演してきたSammyだが、この日もダークな雰囲気から徐々に切り替え、よりグルーヴィーな展開で長時間踊るオーディエンスを虜にしていた。音数を減らしつつも、時折狙い済ましたかのように印象的なトラックを投下する、フロアから離れる隙が見つからないようなDJ。特に前半から中盤にかけて、Moodymannの楽曲から自らのレーベルの楽曲に繋ぐ流れは、正にマジックとしか言いようがない時間であった。 締めは再びFumiya Tanakaがプレイ。ハウス・テクノの縦横軸のグルーヴを使い分けながら、トラックが機能する最適な時間とシチュエーションを見極める力は、未だ他の追随を許さない。前半に比べ、よりテクノの面白さ、反復の快感を強調するようなセットを展開し、一貫したムードの中パーティーは幕を閉じた。 一人ひとりの持ち時間が長く、かつ通好みのゲストを招致しながらも、未だ高い信頼度をキープするCHAOS。出演者のバリエーションでかさ増しせずとも、Fumiya Tanaka、Sammy Deeのような対応力・表現力に優れたDJがいれば、間違いのないパーティーが作れることを証明していた。その一方でこの日のグルーヴをより鮮やかなものにしたのは、Akiko Kiyamaに他ならないだろう。自らの作家性をフロアベースで表現し続ける彼女も、以前変わりなく代わりのいない存在だ。機能性のみに縛られない、テクノの可能性を改めて認識させられるような一夜であった。
RA