P. Morris - Beloved

  • Share
  • 眩く高精細度なシンセによってヒップホップが埋め尽くされていく世界。そこではP. Morrisの音楽はより世俗的になる。全ての始まりは今年の『Debut』、豪華なアレンジメントと暖かく気取らないサウンドをフィーチャーしたアルバムだ。『Debut』に続き発表される「Beloved」は酸いも甘いも通過したロマンティックな関係について綴ったコンセプトEPで、ラップというよりももはやブルースのようなサウンドとなっている。 EPのスタートを切るのは"Grace"、べっとりとしたブルージーなロック・チューンだ。ドラム・サウンドに施されているタイム・ストレッチの技巧によって過度の男性感を和らげている。エフェクター処理によって故意に人工的な質感を生みだしており、まるで操り人形のようにコントロールされたアンサンブルだ。"Darling"も同様の方法論に基づいているが、より印象派的なトラックとなっており、一方で"Before You Disappear"は心に染み入るスライド・ギターによってどろどろとしたリズムを中和することによって開放的になっている。Morrisは中盤でトラックをバラバラにし置き去りしており、適度なバランスで琴線に触れてくる。 静寂と空間が「Beloved」におけるMorrisの秘密兵器となっている。収録曲の多くは暗い影から少し姿をのぞかせているかのようであり、リスナーの注意を引いたかと思えばその姿をくらませる。サウンドを点在させた"Fallen"はJames Blakeを彷彿とさせる。奇妙にピッチを下降したボーカルのコーラス部分は特にそうだろう。"Theme From Beloved"はスティール・ドラムとチャイムが瞬間的に混沌と混ざり合ったトラックで、メロドラマのオープニング曲のようだ。この2つよりも他のトラックの方がよく練られているように思う。ラウドかつソフトなダイナミクスが最も活き活きとしているのが"Beloved"だ。甘く歌い上げるボーカルと可愛らしいピアノ演奏で満たされた想像上のカップルに捧げる幸福宣言であるかのようだ。「Beloved」には他の作品よりも実験性が上手く機能している場面もあるが、何より本作はMorrisがますます異なる方向性に進もうとしていることを証明している。
  • Tracklist
      01. Grace 02. Before You Disappear 03. Theme of Beloved 04. Fallen 05. Darling 06. Beloved
RA