RBMA presents The Roots Commandment: Tokyo In Dub

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  • Red Bull Music Academyが主宰するサウンドシステム・カルチャーにフォーカツしたイベントThe Roots Commandment :Tokyo in Dubが、去る11月8日(土)に代官山UNITにて開催された。イベント名に冠された“Commandment(=掟の意)”は、本公演のヘッドライナーでもある、UKダブの重鎮 Jah Shakaのシリーズ作品『Commandments of Dub』と紐付けられているように、“ダブ”をキーワードに国内外のアーティストがそろった。その中でも注目となったのは、ニュージーランドのダブ・バンド、Fat Freddy's Dropの初来日パフォーマンス。そのせいもあってか、UNITのエントランスは入場規制がかかる大盛況となった。長蛇の列のエントランスをくぐり抜けてメインフロアへと階段を降りると、Mighty CrownのセレクターであるCojieがDJブースに立ち、アーリー・タイムらしい渋めのルーツ・レゲエをスピンしていた。 その後、本イベントの目玉であるFat Freddy's Dropのライブ・パフォーマンスがスタート。ギター、キーボードにボーカル、3人の管楽器を含めた8人からなるFat Freddy's Dropは、レゲエの要となるドラム&ベースをDJ Fitchieのシーケンスにゆだねるという特殊な編成。ルーツ・レゲエ・マナーに則ったリズムやエレクトロニックなビートをダブワイズするのが彼らの持ち味だ。ステージ前半はBPM90前後のビートを主体にジャズ~ヒップホップ~ダブを行き来するような、しっとりとしたセットを展開。待望の初来日にはち切れんばかりに満員となったフロアを目にしながらも、マイペースにユルいサウンドを披露していく。サウンドの要を握るのはシーケンサーやリズムマシンなどの機材に囲まれた巨漢のDJ Fitchie。もともと彼のDJに合わせてプレイヤーたちがジャム・セッションを繰り広げたのを機にFat Freddy's Dropが生まれたというのは、彼らのファンの間はよく知られたエピソードだ。それもあってか、レゲエというポリリズムで起伏のあるグルーヴが主体の音楽でありながらも、シーケンスと生演奏を見事に一体化させたサウンドを披露。適度にプレイヤーのインプロヴィゼーションを挟み込むことで、場合によっては単調になる危険性を孕んだシーケンス・ビートを、有機的なグルーヴへと昇華させていた。そんな職人的なサウンドに加え、Joe Duckieの音源とまったく同じな憂いのある歌声にも、フロアからは常に大きな歓声が上がる。後半になるとBPMの早めの曲を矢継ぎ早に演奏。アフロビート、ファンク、テクノを重ね合わせた独自の音楽性に、オーディエンスはグッと引き込まれていく。1時間半を過ぎるパフォーマンスだったが、オーディエンスからの熱烈なアンコールを受け、再度ステージに登場して演奏をはじめる。いかに日本の音楽フリークたちがFat Freddy's Dropのパフォーマンスを渇望していたのかが分かる、素晴らしい瞬間となった。 続くJah Shakaへのステージ転換の間はSaloonへと足を運ぶと、Buraka Som SistemaのBrankoがクンビアやクドゥロといった音楽を吸収したトライバルなダンス・セットを披露していた。この日のためにSaloonに持ち運ばれたサウンドシステム、Jah Lightから放たれたBrankoの音は、完全に第三世界のベース・ミュージック。剥き出しの低音が生み出すゲットー感溢れるサウンドにSaloonのフロアは大いに熱狂した。このように各フロアでダブから派生したさまざまな音楽が披露されていたが、それらをまとめ上げ、根源となるルーツ・スタイルへとガイダンス(導く)したのがラストを飾ったJah Shakaだった。ハイレ・セラシエの肖像に囲まれたShakaが冒頭にかけたのはBob Marley & The Wailersの"Exodus"。“ジャーの民の行進”という歌詞をキーワードに、オーディエンスをルーツ・レゲエの世界へとガイダンスしていく様は、まさにShakaのお家芸。その後はお得意のUKニュー・ルーツ・スタイルを披露し、増設されたウーファーを120%鳴らしきる快演を聴かせた。この日のお目当てはFat Freddy's Dropの客が多かったからか、イベントの終盤に差し掛かるShakaが始まった頃には、フロアの客足が少しずつ引いてしまったのが残念だったが、それでもShakaによるガイダンスは3時間以上にわたり、熱を持って行われた。 本イベントの面白いところは、ダブという単語を広義で捉えていたこと。ダブ(つまりはベース・マナー)というフォーマットがいかに多様性を持つのかを、しっかりと表現できている点にあったと思う。Fat Freddy's Dropのような変則ダブバンドからBrankoのゲットー・ベース・ダンス、そしてShakaのガイダンスと……ダブという音楽や手法がいかに多彩な可能性を秘めているのか、その魅力に迫った素晴らしいイベントだった。オーディエンスもレゲエやベース好きだけでなく、幅広い客層が訪れていたことからも、このイベントが大成功であったことは間違いないと言えるだろう。 Photo credit: Yusaku Aoki / Red Bull Content Pool
RA