Future Terror

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  • DJ Nobuが主催する千葉発のアンダーグラウンドパーティーFuture Terror。今年で13年を迎える同パーティーが、去る9月6日(土)に代官山UNITにて開催された。当日降りしきっていた雨も、深夜を回る頃には上がり、会場へと向かった。メインフロアへと足を運ぶと、12時を回る頃にはFuture TerrorのHarukaとBlacksmokerにも所属するDJ Yaziによるユニット、Twin Peaksがライブセットを披露していた。ハード機材を織り交ぜながらディープな電子音ワールドを展開する。長丁場となることが多い同パーティーだが、すでにまずまずの客入り。とは言ってもまだウォーミングアップという感じで、ラウンジでお酒を楽しむ人も多い印象だ。 そして今回のFTのラインナップの目玉でもあるCharles Cohenがステージに姿を現わす。DJ Nobuが“今一番注目のアーティスト”とも語るCohenは、フィラデルフィアを拠点とする電子音楽家で、1971年に音楽家としてのキャリアを歩み始めたベテラン・アーティスト。ライブはヴィンテージ・シンセサイザーであるBuchla社のMusic Easelをインプロヴィゼーションで操るというスリリングなものとなった。Music Easelのタッチ式の鍵盤を演奏しながら、フィルターやLFOなどを操作。硬めのリズムを出し入れしながら、エクスペリメンタルなシンセ独奏を披露。現在は60歳後半という御大だけあり、ゆったりとした展開ではあったものの、Music Easelならではの透明度の高いサウンドは素晴らしく、アナログ・シンセらしいレンジの広さを武器に、パフォーマンス後半ではダイナミックなアシッド・サウンドを鳴らす。身体の揺らしながら、Cohenのパフォーマンスを食い入るように見つめるオーディエンスの姿も印象的だった。 続いてCohenの近作をリリースするレーベルMorphineの主催者、MorphosisことRabih Beainiがレコードをプレイ。エレクトロニック・ミュージックやノイズ~前衛音楽に加えて自身のルーツでもある中近東のサウンドをゴッタ煮にした独自のミックスを得意とするが、この日はどちらかというとダンスよりにシフトしたセットを披露。その分、観客を立ち尽くさせる洪水のようなサウンドこそ聴けなかったものの、Cohenからの流れを汲めば、そろそろダンスしたくなるオーディエンスの意図を汲んだ正しい選択だったようにも思う。Morphosisがプレイする中、Saloonへと階段を降りてみると、Future Terror初参加となるWata Igarashiがアシッディなテクノをプレイしていた。重心の低いキックと陶酔的なシンセのサウンドにハメられ、後ろ髪をひかれつつもメインフロアに戻ると、フィナーレを飾るDJ Nobuが意気揚々とミキサーを操っていた。テクノはもちろんハウスからエクスペリメンタルなダンスものまで、ハズレのない選曲を聴かせる彼だが、Future Terrorでのプレイは、やはり気合いの入りようが違う。選曲はもちろんだが、何よりもNobuのマインドが音源のダイナミクスを増幅させているかのようで、オーディエンス一人一人を感電させるかのごときテクノ・セットで攻撃的に迫ってくる。翌日の予定があったので始発で帰ろうと思っていたのだが、気がつけばメインフロアの音が止まった午前8時過ぎ…またしてもDJ Nobuのマジックにかけられた!と、帰路へと急いだ。 イベントを包括してみると、今回のFuture Terrorは、Charles Cohenのようなフリーフォームなシンセ・パフォーマンスをメインタイムに持ってくるという、ある意味で実験的なラインナップであった。それでもMorphosisが自分らしさを出しつつもダンス方面に振ってみたり(そこに違和感を覚えたオーディエンスも少なからずいたとは思うが)と、全体的にもバランスの取れた内容だったと思う。と、評価しながらも、やはりDJ Nobuが締めることでFuture Terrorは成立するのだと強く実感したのも事実だった。DJ Nobuのサディスティックなプレイに負けじとついていくオーディエンスの一体感こそ、Future Terrorというパーティーの醍醐味。パーティーが年をとるごとにオーディエンスも成長していく、だからこそこういった実験的なラインナップを受け止めることができるのだろう。自分を含めて午前8時を過ぎても帰らずに踊る脚を止めないフロアが、Future Terrorというパーティーの懐の深さを証明していた。
RA