Wolfgang Voigt - Rückverzauberung 9 / Musik Für Kulturinstitutionen

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  • これほど多く新たに音楽が生まれている中、何故、Resident Advisorが今回のような500枚限定のCD作品のレビューをやっているのか不思議に思うかもしれない。しかも本作はアルバム作品というよりも、ベルリンのHaus Der Kulturenで最近行われたエキシビションDoofe Musik, Lieder zum Träumen, Betäuben Und Vergessen(訳: 馬鹿げた音楽、夢を見るため、神経を麻痺させるため、そして忘れるための歌)でのサウンド・インスタレーションのために制作された音楽作品だったものだ。その何故の理由は、GAS名義にてエレクトロニック・ミュージックの新たな表現を創り上げた男、Wolfgang Voigtによる作品だからだ。アンビエントと4つ打ちテクノの境界で活動してきた彼の没入していくような作品は、特異なまでに空間的であり、感情的に訴えかけるものだった。先の見えない深いベースと、こもったキックが生み出す風景には霧が立ち込め、その中で反復するループのアレンジは、The Fieldや今日のほとんどのダブ・テクノの礎を築いたものである。 『Rückverzauberung 9』はGASの路線であるわけではないが、半分溶け始めているようなサウンドと、暖かなアナログ盤のノイズ、そして卓越した瞑想のような感覚を促す反復を伴った本作を聴けば、すぐにVoigtの手によるものだということが分かる。しかし、その音色と構造が異なっており、GASがドイツにおける秋の森を彷彿させるならば、『Rückverzauberung 9』は、真っ青に晴れた空の下、沖に向かって波が打ち寄せる綺麗な砂浜を思い起こさせる。また、その反復のあり方はさらにミリタリー感を増している。勢いを加えるようなキック・ドラムは用いられておらず、4~5つのループが複雑に絡み合って、5つのトラック中を延々と展開しており、一見、何分も変化がないように思える場面もある。その処理の施し方には、Manuel Göttschingの"E2-E4"を思わせるが、余分な素材や装飾は一切取り除かれている。 当然、これは全て、ゆったりとした気持ちにさせながら変化が起こっていないかのような幻覚を生み出すVoigtの策略であるし、彼が使用している音の断片やパターンを変異させていく様は明確になっている。"9.2"は歪められたダブ・レゲエの作品のようなトラックであり、疲弊し、酩酊し、至福が訪れ、絶え間なく続いていく。しかし、"9.4"では、ブラス・セクションのサンプルにほんの少し調整が加えられただけで、もはや陽気にすら感じさせている。重要なのは大きな変化ではなく、『Rückverzauberung 9』に自らを没頭させるときに起こる2つの変化の過程だ。まず1つ目は、ループを聞き取っていると各小節ごとに異なって聞こえてくるという幻聴が起こり始めること。そして2つ目は、客観的に見て新しい要素が僅かに変化していくときの衝撃が強大であり、リスナーの認識にも影響を及ぼしている点だ。 こうして次々と積み重なっていく効果の程は、リスナー自身の状態に拠るところが大きい。もし『Rückverzauberung 9』を抗った気持ちで聞いたり、もしくは何か他のことをしながら聞くならば、それは気持ちが悪く、密室的で、抑圧されたものになるだろう。そうではなく、LSDを摂取するときの状態と同様、思考が活性化することに対して自分自身をオープンしなければならない。そして、その効果はリスナーごとに異なるものになるだろう。
  • Tracklist
      01. Rückverzauberung 9.1 02. Rückverzauberung 9.2 03. Rückverzauberung 9.3 04. Rückverzauberung 9.4 05. Rückverzauberung 9.5
RA