Theo Parrish live in London

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  • 今月はじめにロンドンで行われたTheo Parrishのライブショウで、“Chemistry”のドラムが響く中、曲の中盤にさしかかる頃には観客が総立ちで踊り始め、その様子はまるで、室内全体に電流が通ったかのようであった。ロンドンのBarbican Centreは本来、観客が自由きままに動き回れるような場所ではないのだが、ステージ上には4人のダンサーがいた上に、Parrish本人達までもがノリノリだった為、客席も踊りださずにはいられなかったのだ。「俺達は今日、お前らの為だけで演奏しているんじゃない。俺達もお前らと一緒に楽しむ為に来たんだ」と、Parrishは客席に向かって話した。 この時点で、Teddy's Get Down(Parrishのライブバンド)は既に、Brass Constructionの“Top Of The World”や、Parrish自身のトラック"Sky Walking"を演奏していた。しかし、観客の足を動かせたのは、やはり“Chemistry”であった。また、ダンサー達はこのショウにおいて重要な役目を果たしていた。彼らは観客のムードをコントロールし、ダンサー達が休憩の為にステージを離れる度に、客席からは歓声や拍手喝采が湧き起こった。“Chemistry”に続いて演奏されたのは、物憂げにアレンジされた“Soul Control”だった。その後は、今年発売予定の最新アルバム『American Intelligence』の収録曲である、ParrishとMarcellus Pittmanによる共作トラックを披露した。Parrishは「ずっと立って踊っててくれててありがとう、お前ら最高だよ」と言っていたが、それは彼が心底そう思っているように聞こえた。“Changes”を演奏中の彼は少しおどけた様子で、まるで芝居でもしているかのようにバケットハットを脱いでみせたりしていた。 Myele Manzanzaによる静かなドラムソロが、“Solitary Flight”の始まりを知らせた。ここからが今回のショウのハイライトとなり、その場にいた全員がSound Signatureのクラシックに体を揺らし始めた。フルパワーを出していたバンドは、続いてParrishのニューシングル”Footwork”をプレイ。ヴォーカル、インストゥルメント、ダンスといった全ての要素が、Parrishの現代社会に対する反抗を表しているかのようだった。その後、クラウドがアンコールを求めると、ビッショリと汗をかいたバンドメンバーとダンサー達はステージへ再び姿を現し、Skyeの“Ain't No Need”のカバーを演奏。Parrishはこのトラックを、彼の盟友であるDJ、Sadar Baharから「拝借した」ものだと言った。「これは、あのレコードを蘇らせたいっていう、俺達のちょっとした企みなんだよ」。実際、それは決してちょっとした程度などではなく、多幸感に満ち溢れた素晴らしいライブ・ディスコであった。 ギグの前後に、明らかにアシッドジャズの呪縛から抜け出せていないであろう人達の小言が方々から聞こえてきた。それは仕方のないことなのかもしれない。しかし、今は1991年ではなく2014年なのであって、ジャズ要素の強いエレクトロニックバンドの時代は、もう過ぎ去ったのだ。 しかも、Parrishの作品はライブ演奏にはうってつけである。厳選されたバンドメンバーは、キャラクターに満ち溢れている(Amp Fiddlerへの観客の反応は、むしろParrishよりも大きい程だった)。ショウに欠点がないわけではなかった。気まずい静寂が流れた時間があったり、Parrishによる冗談がスベったり、シンガーのIdeeyahによる迫力のある歌声に頼り過ぎな部分もあった。しかし、Parrishはピアノのリフレインやジャズドラム、ヴォーカルといったライブの音を巧みにサンプリングしながらセットを組み立てており、そのパフォーマンスは原点回帰とでも言うような、非常に満足感のある内容であった。
RA