- 2010年、Little White Earbuds（英語サイト）のために、René Pawlowitzのインタビューを行った。Shed、Head Higeなどの名義で活動する男だ。その際、彼はクラブ・トラックを作るのがいかに簡単かを何度も繰り返し強調していた。性格に言えば「すごく、すごく、すごく、簡単だ」である。「ただヘビーなドラムとヘビーなベースが必須、ということだけだよ」と彼は説明する。この発言は極端に単純化したものかもしれないが、WK7、Evil Fred、Sigg Gonzales、今は休止中だがWAX、EQD、そして現在のお気に入りであるHead Highといった名義のもと、彼がリリースしてきたクラブ作品を聞けば、それも納得だろう。ごちゃごちゃいわず実用的で、悪びれることなく型通りのトラックはまるで、自分がやっていることをハッキリと分かっている人が、ささっと作り上げたかのように思える。要は、ベルリンに限らず世界的に見ても、何年も彼の作品は特大級のクラブ・トラックであるということだ。
収録曲の数という点以外、『Megatrap』はこれまでの作品と何ら変わりはない。つまり、純粋かつ絶対的な巨大さを持ったサウンドのレイヴ・ツールを集めたものということだ。このフル・スロットルなやり方は、巧妙さとは対極にあるものに見えるかもしれない。しかし、各トラックには、丹念に意匠が凝らされ、何がダンス・フロアでエネルギーを生み出すのかを深く理解していることが映し出されている。各ドラム・パターンには素晴らしい躍動感が存在している。4つ打ちのトラックには、象が全力疾走したときのような勢いがあり、ダビーなトラックは、巨大な重りと共に弾んでいる。"The XXX Mono Mix"として三度目の登場となる"It's A Love Thing"での、可聴域すれすれの重低音が波打ちながら持続して音圧を生み出すところや、"Think It"のイントロにおける最高にドスンとくるキック・トラムがつんのめっている点を考えると、小さくとも技の光る追加アレンジが、トラックをさらに素晴らしいものにしているだということが分かる。いつも通り、Pawlowitzは特に重要なキック・ドラムに見事な処理を施している。ディストーションに少しくぐらせ荒々しいキックもあれば、レザーに包んだかのようにスムーズなキックもあり、そのほとんどには、途方もないスケール感を生み出すためのリバーブが用いられている。時折、あらなるキックがオフビートに打ちつけられているが、そのキックの場所によって、より浮遊感が増したり、より強力になったり、もしくはその両方の効果が生まれている。
しかし、どんなに『Megatrap』がヘビーなサウンドだとしても、同時に見事なまでにバラエティに富んだ作品でもある。収録曲の中でも素敵なのは、多幸感溢れるブレイクビーツだ。例えば"Megatrap (Real Mix)"は、1拍目のみにキックが置かれ、残りの小節はブレイクビーツがカバーしている（念のため言っておくが、アーメン・ブレイクではない。）"The Higher(V2014)"の前半部分はビートレスで、ぼやけたアルペジオがきらめいているが、その後は同様のドラム・パターンが見受けられる。そして、本作のオープニングで爆発的な一斉射撃を仕掛けているのが"Hex Factor"だ。PawlowitzのUKフェチっぷりを殴りつけるような4つ打ちと組み合わせている。"Hex Factor"と対を成すビートレス・トラック”Hex Pad"は、空へと上昇していくインタールードとして機能している。
『Megatrap』に対して成される批判として明らかなのは、変わりばえしないということだろう。そして、その批判はごもっともだ。本作に収録された9つのトラックはHead Highや他の名義の過去作品と比べても表面的にしか変わっていない。しかし、そんなことをとやかくいうのは、論点がずれている。Pawlowitzは以下のように語っている。「これは、ダンス・フロアのためのトラックだ。それ以外の何ものでもない。」言い換えるならば、クラブで機能すること以外の一切の要素が取り除かれたクラブ・ミュージックということだ。もしも、Pawlowitzが自分の意思を徹底するのならば、こうしたトラックから評価を得ることさえ必要としなくなるだろう。DJとオーディエンスが楽しむだけのためにトラックは存在するようになるのだ。残念なことに、彼の正体は、ばれてしまっている。テクノ界において最も難なく傑作を生み出すプロデューサーとして、その地位をさらに確固たるものにしているからだ。
Tracklist01. Hex Factor
02. It's A Love Thing (The XXX Mono Mix)
03. Megatrap (Real Mix)
04. Megatrap (4F Mix)
05. Hex Pad
06. Megatrap (Mix Mix)
07. Power Seat
08. Think It
09. The Higher (V2014)