Sónar 2014

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  • ブッキングに見られる冒険心や、ブランドの長年の歴史があるにも関わらず、Sónarが最も注目を集めるのはそのスケールの大きさである。巨大なヴェニューと、ブッキングされているアーティストの数の多さ(フェスティバルのゲートの外、つまりバルセロナの街のあちこちで開催される無数のパーティーについては言うまでもない)を見れば、あなたは間違いなく、何か見逃しているんじゃないかという気分にさせられるだろう。筆者もまた、3日間に渡り繰り広げられるフェスティバルの間、誰を見ようか悩んでしまうだろうと前々から思ってはいたが、1つだけ見逃し厳禁のパフォーマンスがあった。それは木曜日のSónar By Dayのトリを務める、Richie HawtinのPlastikmanだ。Fira Barcelonaの中にあるSonarVillageステージの観客席のど真ん中に建っていた漆黒のタワー(正式には“直方体”と言うらしい)が、日が暮れるにつれて円くて白いイメージを発光しだした。Hawtinは直方体とメインステージの間に、数多くの機材と共に現れた。そして彼のトレードマークであるブロンドの髪を指で搔き上げ、サウンドシステムからテッキーでアシッドな音を鳴らし始めた。タワーの光のイメージはHawtinのセットが進むにつれて、レーザー・グリーンの格子や、目がチカチカするような赤のもつれ合いなどより複雑になっていったが、音楽自体はクラウドをガッツリ盛り上げるというよりも、どんどん深く潜り込んでいくような内容だった。夜の始まりを告げるエネルギーに満ちた会場のヴァイブ、もしくは直方体のショーがなければ、このセットは少し地味すぎたかもしれない。 金曜日は、Sónar By Dayのもう1つの印象的な直方体をチェックしに行ってみた。このもう1つというのは、コンベンションホールの中央に吊るされた黒く分厚いカーテンでできた直方体であり、これがなければその空間はガラガラだっただろう。Hawtinのそれとは違い、こちらの直方体は中に入れるようになっていたので筆者も近づいてみると、内部で大音量で何かが行われていることに気がついた。その正体は、Despacioだった。フェスティバルの期間、デイタイムの間中ずっとパーティーが開催される仮設クラブのようなものだ。このプロジェクトのフロントマン兼セレクターはJames Murphyと2ManyDJsが務めていたのだが、彼らはブースをそのほぼ真っ暗な空間の隅に設置し、その代わり、このイベントの主役である見事なサウンドシステムをライトで照らし出していた。タワー状に組み立てられたスピーカーの1台1台は、見るからに高そうなMcIntoshのアンプを搭載しており、それらが数百人のダンサーがいるフロアを囲むようにして設置され、温かく、クリアで、かつパンチの効いたサウンドを放っていた。MurphyとDewaele兄弟はそのサウンドシステムの鳴りを試しているかのごとく、アンダーグラウンドハウス(Marcellisの"Because")からインディーダンスのクラシックス(Orange Juiceの"Rip It Up")まで、あらゆる音楽をプレイしていた。その日かかったBeatlesの"Here Comes The Sun"は、その場にいたクラウドがこれまで同トラックを聴いてきた中でも最高の鳴りをしていたのではないだろうか。筆者がDespacioのダンスフロアで過ごした数時間は、今回過ごした週末の中のハイライトの1つであった。Sónar By Dayの間中ずっとそこにいてもいいくらいの気持ちだったが、他にもチェックしなければならないアクトがたくさんあったので、仕方なくその場を離れることにした。 Sónar By Dayは、まぎれもなく最高のフェスティバルだ。Theo ParrishとDJ Harveyが金曜日と土曜日のトリを飾ったほか、MatmosやOneohtrix Point Never、James Holdenなど錚々たるメンバーが出演した。しかしそれと比べると、Sónar By Nightはどうしても風変わりに見えてしまう。 金曜日の夜、そのスペースの巨大さに圧倒されるだろうと話に聞いていたFira Gran Viaへ、筆者は初めて足を運んだ。しかし、数千人のレイバーがいるフロアの後ろの方で、豆粒のようにしか見えないModeratを聴いている時、これほど大きな音を聴くのに、ここ以上良い場所はないかもしれないと感じた。また、善かれ悪しかれ、By Nightは巨大なステージでのプレイもお手の物のアクトをラインナップしている。例えば、DJセットで登場したHawtinやLoco Diceは、隙間の空いたキックから大きなブレイクダウン、そしてそれをまた戻すという、いかにもテクノらしい手法で観客を沸かせた。Nile Rodgers and Chicはというと、正直チージー以外の何ものでもなかった。次から次へとヒット曲を生んできた世界一のリズム・ギター・プレイヤーは、終始観客に手拍子を請い、更に代表曲である"Good Times"の演奏中には、1人だけ"Rapper's Delight"のラップ部分を口ずさんでいた。それでも尚、あれほど人を惹き付け、作り込まれたセットは、その週末中他になかっただろう。CaribouとJames Holdenが土曜の夜に披露したB2Bは、洗練さを損なずともマッシブな演出ができるということを証明し、彼らの存在と同じくらい魅力的な、文句のつけようのないトラックの数々をプレイした。 Sónarは、その巨大なステージに誰をラインナップするかという点において、非常に怖いもの知らずだ。その為、時にはスケジュールが退屈な内容になってしまうこともある。Todd Terjeのライブセットは、By Nightという大舞台においてピッタリのサウンドだったが、 —その週末、バルセロナの街で1番喜びに満ちた演奏をしてくれたChicは置いておいてー、Terjeのステージ上での振る舞いやヴィジュアル演出は、あのサイズのヴェニューで観ると少し物足りないように思えた。By Nightの中でも1番小さなステージであるSonarCarでは、よくあるフェスティバルのサウンドシステムではなくVoidを採用しており、その最高の音質で聴くエッジィな音楽は別格であった。巨大なアリーナスペースのSonarLabとSonarPubに挟まれ、バンパーカーの敷地の目の前に設営されたそのステージのラインナップは、2日間に渡って一貫性のない内容であった。他の大きなステージと同じくらい混み合っている時もあれば(例えば土曜日に、スペイン人DJ Unerが登場した時)、その空間が単なる音の大きな玄関ホールに感じるような瞬間もあった。 しかし、いずれのケースでも、アーティスト達は大いに楽しんでいたようだ。VisionistとHappaがダークでジットリとしたセットを披露し、続いてL.I.E.S.からRon Morelli and Svengalisghostの2人が登場。彼らは、両隣にある大きなステージ間を移動する為にその場を通りかかった観客達を挑発するようなプレイをしてみせた。(ハウスというよりはパンク、の方がしっくりくるような後者のライブセットは、エクストリームでありながらもキャッチーで魅力的な内容であった。)クドゥーロ(ポルトガル発祥の音楽/ダンススタイル)の重要人物であるDJ Nigga Foxは機材トラブルに悩まされていたようだが、彼の代名詞でもあるバウンシーでアブストラクト、荒削り、かつフューチャリスティックなサウンドはさほど損なわれておらず、それまでCaribou and James Holdenからフードコートの辺りまでをずっとウロウロしていた筆者の足をピタリと立ち止まらせたほどだった。 筆者が感じた以上に、Sónarは良い点もあれば悪い点もあるだろう。もし旅の日程を変更できたのであれば、スタジアム・テクノや、超エクスペリメンタルな音楽、もしくは新たなテクノロジーの為のフェスティバルとして、もっと楽しむ事ができたかもしれない。(+Dと呼ばれるテック・ショウケースはBy Dayの会場のいくつかのスペースを使用して開催され、ハックラブやカンファレンススタイルのプレゼンテーション、そしてレーザー・コントロール・シンセサイザーの試作品の展示などが行われていた。)多少なりとも前準備や、iPhoneへのスケジュールのダウンロード、そしてフェスティバルの間はかなりの持久力が必要とされるが、それでも尚Sónarは、ヨーロッパでエレクトロニックミュージックを聴いて過ごすには最高の週末であることには変わりない。そしてここは、レイブがハイアートのような何かになり得る場所でもあるのだ。 Photo credits: Guillermo Granell (Despacio, Nile Rodgers, By Day crowd)
RA