Lone - Reality Testing

  • Share
  • "Pineapple Crush"、"Crystal Caverns 1991"といった喝采必至のレイブ回顧な一連の作品を発表した後となっては、もともとMatt Cutler(Lone)がカラフルなヒップホップを作りながらキャリアをスタートさせたことを忘れてしまっても無理はないだろう。ヒップホップからの影響は昨年の"Airglow Fires"にも表れている他、2012年のアルバム『Galaxy Garden』(英語サイト)でみせていた三次元の豪快な質感にも、彼の昔の作品で聞くことの出来たシャッフル感が組み合わされていた。Loneの6枚目のアルバムとなる『Reality Testing』も、ハイブリッドという点において突出しており、デトロイト・テクノとヒップホップ黄金期のサウンドを混ぜ合わせ、いつもの派手なアレンジではなく、1人のアーティストとして持っている様々な要素を提示しようとしている。 2040年に待合室で流れているような音楽、『Reality Testing』は、そのように聞こえる。人間味がほとんどなくて完璧なのだ。"2 Is 8"でのパンチの効いたブラス・セクションの使い方を例に挙げるならば、単にスムーズにジャズを混ぜただけの音楽に終わることがないよう適度にエッジを効かせており、同時に優雅でなめらかさがある。"Aurora Northen Quarter"では、『Emerald Fantasy Tracks』のレイヴィーなピアノを、90年代初期のヒップホップが持つやわらかなバイブスにつなげている。それぞれの要素が全てコズミックにコーティングされて光り輝いているのだが(何年にも渡ってCutlerがマスターしてきたテクニックだ)『Reality Testing』には、彼の過去の作品と比べると、さらに有機的な感覚がある。"Restless City"のドラムや、"Jaded"でのしたたるようなピアノは、まるで目の前で演奏されているようにさえ聞こえる。この3トラックはほぼ、3~4分程度の長さで、インストもののヒップホップと同じだ。反復されるリフという点も共通しており、決して飽きることがない。 本作では、以前のLoneのセンスも光っている。"Vengeance Video"での細かく震えるアルペジオが、展開していくにつれストレートなハウスへと形を変えていく。その一方で、ラスト・トラック"Cutched Under"は、聞いていると旅に出たくなってくる他、Machinedrumとのコラボレーション作品を思い出させてくれる。そして同時に、Cutlerが同じことをいつまでも続けることが出来ないということも示唆している。しかし『Reality Testing』では、これまでと比べると、1つのことに集中するようになっているようだ。様々な要素が絶え間なく飛び込んでくるという、Cutlerの過去数年の印象でもある音楽性が、本作には欠けているのかもしれないが、誰しも時には休憩が必要なものだ。その代わりに、本作では、Cutlerが非常に満足した状態にいるということが表れており、完全に慣れ親しんだ音楽をふっと聞いたとき得られるような暖かくざらざらとした感覚を喚起させてくれる。
  • Tracklist
      01. First Born Seconds 02. Restless Cities 03. Meeker Warmer Energy 04. Aurora Northern Quarter 05. 2 Is 8 06. Airglow Fires 07. Coincidences 08. Begin To Begin 09. Jaded 10. Vengeance Video 11. Stuck 12. Cutched Under
RA