- ディスコ界のヒゲ巨人ことPrins Thomasは、セルフタイトルのファースト・ソロ・アルバムで、がっしりとしたクラフト・ロックと官能的なコズミック・ディスコを混ぜ合わせ、自身のサウンドがアルバムというフォーマットにしっかりと収まるものであることを証明してみせた。その2年後に発表されたセカンド・アルバムでは、そうした職人的なスタジオ作品ではなく、MIDIシーケンサーを弄り回して、未収録テイクを拡張して作ったかのような仕上がりで、ファーストでのふんわりとしたディスコ・ロックはほとんど感じられなかった。
ありがたいことに、Thomasのサード・アルバムとなる『III』は、ファースト同様、複雑なスタジオ・ワークをさらっとやってのけたように感じさせるセンスの光る作品だ。有機的なサウンドの交わりを拡張させたトラックを、Thomasが何時間も楽しみながら編集しているスタジオの空気が収められている。より繊細にクラウト・ロックを追求した約80分間に及ぶ本作の中では、多くのアイデアが芽生え実りを結んでいる。Thomasがプレス・リリースで説明しているように「スペース・ディスコの要素はないが、スペースの要素は豊富に」感じられる。
"2000 Lysar Fra Morellveien"の序盤、ベースがとりとめなく展開し、夜空に輝く星のようにシンセが遠方で鳴り響いている。後にThomasはスペース・ロックなリード・ギターによって、サウンドが渦巻く不穏な雰囲気を作り出している。"Hans Majestet"と"Arabisk Natt (Dub)"は共にFull Puppらしいディスコ・トラックだ。流星系シンセのメロディと力強いギター・サウンドに対抗するように、シーケンサーによる太いビートが重ねられている。"Emmannsrock"は控えめかつ軽めに仕上げられたトラックで、眩いシンセサイザーと共に滑り込んでいき、ドラムがゆっくりと転がりこんで来た後、バレアリックなギターが掻き鳴らされている。
後半に差し掛かると、アルバムはのどかな雰囲気に変わっていく。ThomasがFull Puppから初めてリリースしたシングルのタイトルにもなっているManuel Gottschingを彷彿とさせる霞むようなコスミッシェが姿を現しているのだ。『New Age Of Earth』を彷彿とさせる丹念に作りこまれたパッドからスタートする"Luftspeiling"では、Thomas自らの手によるこもったサウンドのギター演奏が加えられ、約13分に渡ってトラックはゆっくりと上昇していく。小宇宙で繰り広げられるオペラ"Oase"は静かにゆっくりと精度が高められたトラックで、無重力シンセから再びThomasが爪弾くギター・サウンドによる恍惚空間へと展開していく。『III』には、果てしない数の要素と、音旅行が詰められている。本作を聞くと、Thomasには引き続きスタジオで音遊びをしてほしいと思ってしまう。
Tracklist01. Hans Majestet
02. Arabisk Natt (Dub)
03. Kameloen
04. 2000 Lysar Fra Morellveien
05. Enmannsrock
06. Kavalar
07. Luftspeiling
08. Oase
09. Trans
10. Labyrint
11. Apne Slusa