Lunatik Sound System - The Journey

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  • Lunatik Sound System名義における19の作品を通じて、Stephan Laubnerはアンビエント・ミュージックに対する自身の視点を頑なに貫こうとする意思を提示してきた。STL名義で彼がリリースしてきたよりフロア仕様の作品と同様、このプロジェクトも細かな部分にまで意識の及ぶ聴覚と忍耐強さを感じさせながら、ほとんどの要素を削ぎ落とした音楽を生み出している。トラックに安定感をもたらすようなリズムはなく、用いられている要素と言えば、細かく歪んだサウンド、切り取られたノイズ、そして浴びるほど大量なリバーヴだ。リスナーの意識を掴もうとするのではなく、リスナーがやってくるのを座って待っているような断固としたミニマル・ミュージックであり、ぶっきらぼうな作品だと言える。 Laubnerの最新作『The Journey』では、アナログ盤4面に渡って自己を遺憾なく発揮している。荒涼として殺伐としたノイズをメインに展開する88分間は、ゆっくりと座って聞くのがベストだろう。暗闇の中で、もしくは寝起き直後の意識が朦朧としているときに聞くのが好ましい。メロディやリズムが用いられているものの、それはトラックにちょっとした色彩と明暗に変化を加えるためだろう。言葉は悪いかもしれないが、これはムード・ミュージックだ。 『The Journey』は、Laubnerがこれまでに行ってきたアンビエント作品を蒸留したもののように感じる。とりわけ、本作はリマスタリングとミックスが施された昔の作品を活用して制作されたからだ。作品に漂うムードがこれほどまでに揺るぎないという点は、Laubnerが長きに渡って提示し続けている音楽観の証明に他ならない。音楽そのものがもたらすノスタルジック、もしくは、ロマンティックな感情を抱かせるようなことを拒絶するかのように、"Soporific Drugs"と"Broken Cello"といった無愛想なネーミングは、もはや皮肉を感じさせるほどに的を得ている。とは言うものの、アルバム序盤からしばらく経過すると、そうしたムードは上昇し始め、"Calm Light"や"Tribute To The Beauty"では、他曲に漂っているがらんとした空気よりも若干明るい輝きを放っている。 最初に『Theey Journey』をとおしで聞いたとき、筆者は高速道路を走る夜間バスに乗っていた。今回のような作品が最も輝き、意味を成す環境の中にいたように思う。座って、ヘッドフォンをつけて、車の光が過ぎ去っては闇の中に消えていく。耳を傾け、作品の流れに合わせ自身の思考を漂わせるのだ。それ以外には何もない。外部からの刺激が一切ないため、意識が自然と内向きになっていく。もしかすると、何かしら啓示を受けることがあるかもしれない。Brian Enoが『Discreet Music』を制作したときにまで遡ると、Enoはアンビエント・ミュージックを「聞くという意識に対し、特別に促そうとすることなく、多くの段階に渡って適応することができる」ものと表している。それから約40年が経った。『The Journey』は、この伝統を堂々と守り続けている。
  • Tracklist
      01. Get Ready 02. Broken Cello 03. Afaik 04. Soporific Drugs 05. Don't Listen To Your Eyes 06. Calm Light 07. Tribute To The Beauty 08. A Moment Of Sincere Tears 09. The Beauty In The Deep 10. Make Yourself At Home
RA