- Wallsのトラック、例えば、"Burnt Sienna"のようなトラックを好きな人にとっては、『Sound Houses』の内容に、もしかしたら驚くかもしれない。本作では、日差しがかすんだようなエレクトロニカや生々しいアナログのグルーヴは、あまり用いられてはいないが、それもそれほど不思議なことではない。なぜなら、このアルバムはBBCがロンドンを拠点とする2人組Wallsに委託したものであり、BBCレディオフォニック・ワークショップ(電子音楽研究所)を1958年に設立したDaphne Oramによるアーカイブスを自由に閲覧することを許されて制作したものだからだ。劣化した1/4インチ・テープを巡る今回の音旅行は、1960年代のシンセ・サウンドを用いて、シューゲイズ的というよりも、陰険な印象をした10のトラックへと結実したようだ。
収録曲の内3曲は2分以下の長さになっているなど、『Sound Houses』はラフ・スケッチのようであり、コンセプチュアルな印象がある。最も残酷な展開になっているときでさえ、Demdike StareやShifted、そしてSamuel Kerridgeらのようなしっかりと統制されたパワーが生み出されているわけではない。しかし、Oramの不気味でディストピアなサウンドが、現行の陰鬱なサウンドの到来をいかに予兆していたのかを示すことが本作の目的であるとするならば、Wallsは十分な仕事をやり遂げていると言えるだろう。特にレディオフォニック・ワークショップ・オタクの人にとっては、"Some Shriller And Some Deeper"、もしくは"Rendering The Voice II"のようなトラックには、考えさせられることが多くあるのではないだろうか。
エレガントなアンビエント・タッチ、もしくは、クラウトロックの流れを組む浮遊感があり、純真な方向性に進んでいるときのWallsは、より一層、確信的であるようだ。収録曲の中では"As It Is In Gems And Prisms"が最もWallsらしいトラックだろう。その一方で、ダンス・フロアから距離を置き、霞がかった陰鬱なダブ・テクノを展開する"Strange Lines And Distances"は、本作における核となるものとして機能している。甲高く鳴り響く特大級のトラック"A Very Large Metal Box"を聞くと、もしもWallsが本作をもっと気軽な方向性で仕上げていたとしたら、全く違うものになっていたかもしれないという印象を与えられる。『Sound Houses』を一級の骨董品として捉えてみるのはどうだろうか。
Tracklist01. Extremely Long Corridor
02. Orchards And Gardens
03. A Very Large Metal Box
04. Rendering The Voice I
05. Strange Lines And Distances
06. Reflexions, Refractions And Multiplications
07. Some Shriller And Some Deeper
08. Rendering The Voice II
09. Reflecting The Voice
10. As It Is In Gems And Prisms