Joey Anderson - After Forever

  • Share
  • UntilMyHeartStopsやSyncrophone、そして自身のレーベルInimegといった小規模ながらも堅実なレーベルからトリッピーなハウスを発表してきたJoey Andersonは、徐々にではあるが、熱心なファンを獲得してきた。西海岸の仲間の多くと同様、ニュージャージー出身の彼のトラックにはアンビエント・サウンドがしっかりと染み込んでおり、彼は特にサイケデリックな側面を強調し、一風変わった演奏と眠たげな雰囲気を持ったサンプルでトラックを満たしている。彼のトラックには霧の中を素材が漂っているように感じさせるスタイルがあり、そのスタイルこそ、Andersonをアルバムのフォーマットに最も相応しい存在にしているものでもある。おそらく、オランダのレーベルDekmantelもこの点を分かって、彼にアルバム制作を委ねたのだろう。その結果生まれた作品『After Forever』は、頑ななまでにダンスフロア直系のアルバムとなっており、彼の言う"ディープ"という概念が、どれほどの深さを持ったものなのかを恐れることなく披露している。 いつも通り、カランと鳴り響くピアノと、ローファイな質感のドラム、そしてそれを包み込むサウンドスケープを組み合わせた『After Forever』では、Andersonの確立されたスタイルの次なる姿が誕生する場面が描き出されている。巧妙なアレンジメントやヒプノティックな反復を生み出すテクニックにこそ彼の本当の才能を見つけることが出来、本作に収録されたトラックの内2曲は、このスタイルを用いて、完璧に近い反復を生み出している。柔らかくシンコペイトする"It's A Choice"はBPM113における抑制の効いたお手本のようなトラックだ。ささやき声に近いボーカル・サンプルと慎重にアレンジされた303が使用されている。一方、ぐつぐつとテンションが沸点に達する"Sorcery"は、フラクタル幾何学のパターンの中でくるくるとシンセが回る終わりのないジャム・セッションのようだ。8分間、物憂げな空気が漂っているが、ドラムにジャジーな感性が宿っていることで、リズムが永遠に続くような感覚を生み出し、退屈することは決してない。 Andersonの音探求は、こうした彼ならではのサウンドの外側へと広がっていく。"Brass Chest Plate"は一見、テクノに思えるが、そこには海流のように暖かなフロウがあり、その後を旋律を奏でるサウンドが続いていく。本作のアンビエントについて言えば、一般的なテクノ・アルバムのインタールードとしてのアンビエント、というクリシェを覆しており、ゴージャスな聞き心地のニュー・エイジなトラック"Space Between Curtains"と"Space Colors Ideas"が突出の仕上がりとなっている。 こうしたアンビエント・トラックがアルバムで最も強力なものであるということが、Andersonの多くを物語っている。確かに『After Forever』には彼のレパートリーに新たに加わるようなアイデアはないかもしれないが、そうした点はさほど必要のないことだ。なぜなら、彼が素晴らしいのは謙虚なところであり、既に誰かがやっていたにも関わらず、それに気付かず同じようなことをやって、新発見だ、と騒ぐような存在ではないからだ。Andersonは、RAでのインタビューにおいて、トラックに人間性を加え、ある種、人としての経験に関係したものにしようとしていると語っていたが、本作で彼がやっていることが、まさにそうだと言えるだろう。『After Forever』を聞くと、サウンドのざわめきや暖かなドラムの響きに耳を奪われる。『After Forever』というヒトが感じているものを、あなたも感じてみてほしい。
  • Tracklist
      01. Space Between Curtains 02. It's A Choice 03. Space Colors Ideas 04. Maidens Response 05. Sorcery 06. Amp Me Up 07. Keep The Design 08. Brass Chest Plate 09. Archer's Ceremony 10. Sky's Blessings 11. Heaven's Archer
RA