Minor Science - Noble Gas

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  • 古い格言に次のものがある。「音楽について物書きをする者というのは実は単に成功しなかった音楽家のことである。そしてこのことを間違っていると証明するものはそれほど多くない。」Minor Scienceの話に移ろう。同僚でもあるRAのライターAngus Finlaysonが音楽制作をやっているということは知っていたが、ロンドン出身、現アムステルダム在住の彼がデビュー作となるEPをThe Trilogy Tapesに送ったとき、その音楽がここまでしっかりと作りこまれたものだとは思いもしなかった。 「Noble Gas」にはムーディーでローファイなハウスの要素を染み込ませた仄かに鈍い光を放つ音楽が収録されている。気だるいグルーヴにはActressからの影響が感じられ、サウンド・エフェクトを多用しすぎた感のある"Foggy Situation"は模倣作と呼ばれても仕方のない出来に留まっているが、それ以外の作品は上手く出来ている。"Lightfastness"は昔のSF映画の断片をつなぎ合わせたかのような荒めのコラージュといった印象。その一方、シンセと反響するドラム・サウンドに爪弾かれるギター・サンプルを埋め込んだ"Silence"では、水の中に出し入れされているかのようにトラック全体が収縮を繰り返している。咳をする音とうめき声で埋め尽くされたファンク・トラック"The Beckoner"にもEP全体に漂う鬱蒼としたスタイルが応用されている。このトラックを聞けばFinlaysonはリズムについても心得ていることが分かるのではないだろうか。 Finlaysonはどうやらハウスとテクノの構造で決め細やかな音風景を作り上げるのが一番、得意なようだ。それほど展開が無いにもかかわらず、収録曲のほとんどで用いられるビートはバランスが取れている。そのサウンドは暗闇の中でヘッドフォンをして聞くようなものだが、DJプレイにも耐えうるものでもある。最もクラブ仕様かつ端整で的確にビートをアレンジした"Hapless"は本EPのハイライトだ。トラックを通じてランダムな間隔で眩いリード・シンセが波打っている。Barry Whiteのサンプルというありきたりなネタを選ぶあたりは、彼がまだデビュー仕立ての新人であることを思い出させてくれる。しかし"Hapless"での閃光と共にトラックが爆発する瞬間、あの心を鷲掴みにされる感覚は、先の格言が常に的を得ているわけではないということを教えてくれる。
  • Tracklist
      01. Lightfastness 02. Silence 03. Hapless 04. The Beckoner 05. Foggy Situation
RA