Cashmere Cat - Wedding Bells

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  • 振り返ってみると、ノルウェーのプロデューサーCashmere CatことMagnus Høibergが2012年に発表したデビュー作"Mirror Maru"での音楽観は彼を一躍、有名にすることになったものだったように思う。エレガントかつ自然体、ヒップホップ・スタイルの彼の音楽は非常に親しみやすいものだが、どのようにして彼がEDMのスターダムにまでのし上がったのかは明確ではない。というのも、彼のトラックには盛り上げるような大きな展開は無いし、むしろ、盛り上がってきたと思った途端、その勢いを引っ込めているようなものが多いからだ。もしかすると、彼が手がけた一連のR&Bやラップのリミックスのおかげかもしれないが、デビュー作から2年経ち遂にリリースされるセカンドEPにその答えがあるかもしれない。今回はLuckyMeからのリリースだ。 Høibergのサウンドは空気の無い室内にいるかのような感覚を与える。繊細なリバーヴ使いによってナチュラルな質感を作り出しているし、まるで生きているかのような音色は彼が好むところでもある。うめいているような声を限界まで引き伸ばし、方向感覚を失っていきそうな効果を生み出している"Pearls"。高音と低音、重ね合わされる2つの声はホラー映画のサウンドか何かを聞いている感覚になるし、その声を取り巻くフルートとブラス・サウンドによるファンファーレとは全くもって対照的だ。 こうした奇妙なアレンジにもかかわらず「Wedding Bells」には華やかな空気が漂っており、お祝いムード満点の楽器と巨大な鐘の音によるタイトル・トラック"Wedding Bells"の一方で、ハープと木管楽器が心和む壮大なドラムとベースに組み合わされた"Rice Rain"も収録されている。しかし、注目を集めることになるのは明らかにAサイドだろう。前述の"Mirror Maru"同様、Kate Bushのバラードを期待してしまいそうになるピアノ・サウンドで"With Me"はスタートする。そこから唸りをあげるベースラインがトラックを飲み込んでいき展開を生み出していく。ほんの一瞬だけ、華々しく一気に盛り上がる場面があるが、その後、トラックは再びこじんまりとした場所へと戻っていく。メインストリームにアピールするものでありながら、Cashmere Catはインスタントな分かり易さというより、焦らすような悦びを得意としているようだ。
  • Tracklist
      01. With Me 02. Pearls 03. Wedding Bells 04. Rice Rain
RA