Memory9 - Red Falcon

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  • ここ数年、ダンスフロアにおけるあらゆる実験の基盤となるものがある。フットワークだ。DJ Rashad、Om Unit、Mark Pritchardといったプロデューサーが骨格だけで作られたつんのめるような808サウンドをアシッド、ジャングル、テクノ、他にも利用できるものなら何でもと言っていいほど、様々な要素と重ね合わせてきた。リズムこそが最重要事項として考えられているシーンにありながら、Memory9ことGadi Sassoonはよりメロディに重点を置いたトラックを制作している。その結果生まれる彼のフットワーク・トラックで、みんながフットワークを踊っている場面を思い浮かべることは難しいほどだ。例えば"Dodecahedron"は鬱蒼とした低音とジャズからサンプリングされたスネアのリズムで成り立っており、その上を、神話(非科学的なもの)で論理(科学的なもの)が覆されることの危険について語ったかの物理学者Carl Saganのスピーチが用いられている。一晩激しく踊った後の時間にはたまらないアレンジだが、決してフロアを盛り上げるようなものではない。 同様に"Bloodlines"と"Portals"でもダンスするというより座った状態でゆらゆらと揺れるといった趣となっており、甘美でまとわりつくようなパッド・サウンドの上を東アジアの弦楽器と鐘の音が浮かんでは消えていくところは、まるでPhotekが新たなリズムを取り入れたかのようだ。"Dusty Red"は本作では唯一、休んでいるとき以外に聞いてもおかしくないトラックかもしれない。コーラスによるサウンドは同じくエモーショナルなのだが、リズムと鼓動する重低音によって密度の濃い印象を作り上げている。このフットワークのリズムはRashadのマッドネスとリラックス出来る暖かな温もりを同時に兼ね備えている。どうやらシカゴの街には発掘されるべきサウンドが他にも山ほど眠っていそうだ。
  • Tracklist
      A1 Dusty Red A2 Portals B1 The Dodecahedron B2 Bloodlines
RA