Secret Boyfriend - This Is Always Where You've Lived

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  • Blackest Ever Blackの評判は主にダークなエレクトロニック・ミュージックのリリースに拠るところが大きいのだが、その世界観は、レーベル設立からの3年間に比べて、格段に多くの要素を含むようになっている。この12ヶ月間だけでも、レーベル設立者であるKiran Sandeはゴス・リヴァイバルや、フリーロック・ミニマリズム、ブラック・パンクの方向性へと動いて来ていることが分かる。Tropic Of Cancer『Restless Idylls』、Shampoo Boy『Licht』、Raspberry Bulbs『Defamed Worship』がそれぞれにあてはまるだろう。そして最新作にして変化球、Secret Boyfriend『This Is Always Where You've Lived』は、もしかするとBlackest Ever Blackリリース史上、最も難解な作品となるかもしれない。 Secret BoyfriendことRyan Martinはシンガー・ソングライターであり、ノースカロライナのカーボロ出身のノイズ・アーティストだ。この場所はProfligate、Lazy Magnet、LACKらの地元でもある。彼は既に、Ren Schofield『I Just Live Here』や自身のHot Releasesの作品など多くのカセットやアナログ盤を所有している。もともとJim Shepard、Peter Jefferies、The Dead Cらが開拓してきたような、ローファイ・ロックの伝統である睡眠時を思わせるような表現方法を、Martinの音楽から感じることが出来る。前述のアーティスト同様、彼もまた様々なスタイルを横断する粗く仕上がったホーム・レコーディングを生み出している。歌とサウンドによるコラージュの境界、そして、自己表現と音響実験の境界を消し去る過程の中に、彼の音楽を見い出すことが出来る。実際、本作を半分聞き終わるまでに、ギターの要素を多分に含んだスローコア"Silvering The Wing"、ざらついたドローンによる"Flashback"、そして原始的なシンセポップ・トラック"Beyond The Darkness"など、多様な音楽性に触れることになるだろう。 これほどまで多くの要素を含み、予測不可能なアプローチを取っているため、別々にトラックを聞いたほうが良いと思うかもしれない。しかし『This Is Always Where You've Lived』はエモーショナルな趣旨という意味では非常に一貫性を持つ作品である。最初から最後まで、本作は不機嫌な感情に溢れている。"Glint And Glow"と"Have You Heard About This House?"の両トラックでは、ほとんど解読不可能ではあるものの、Martinのか細く乾いた声によって、喪失感と諦めの空気が伝わってくる。今にも崩れ去ってしまいそうな色褪せた思い出のように、彼もまた消滅していまいそうだ。こうした感情はボーカルを用いていないトラックでも感じ取ることが出来る。実のところ、最も孤独な響きを持つ瞬間はアルバムの最後3曲に収録されたインスト・トラックによって届けられている。"Last Town"、"Deleted Hill"の2曲はメランコリックでありながら、テープを巧みに使用し、荒涼としたアメリカン・アヴァン・フォークと独創的に混ざり合ったような響きを持っている。一方、タイトル・トラック"This Is Always Where You've Lived"では、陰鬱としたノイズ・ロックの影響を解き放っている。そう、ここには灰色の空に満ちた憂鬱と荒廃したひと気の無い道に立ち尽くしているような光景が広がっているのだ。
  • Tracklist
      A1. Summer Wheels A2. Silvering the Wing A3. Form Me A4. Flashback A5. Remarkable Fluids A6. Beyond the Darkness B1. Dream Scrape B2. Glint and Glow B3. Have You Heard About This House? B4. Last Town B5. Deleted Hill B6. This Is Always Where You’ve Lived
RA