Farah - Metal Irene

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  • Darling Farah名義の音楽を聞くと、そのバックグラウンドにあるストーリーに相応しい内容になっているとは感じられないことがある。もっとも、公平を期すために言うなら、このことが出来ている人はそれほど多くはいないのだが。ここにいるのは、テクノのホームグラウンドであるデトロイトで生まれた若きプロデューサーだ。その後、彼はアラブ首長国連邦に移住しているが、この国は文化面において過激なまでに保守的であり、クラブ・シーンを築くことは厳しい環境となっている。これは逆境の中で起こる創造の物語のようなもので、雑誌の編集長が夢に見るほど好きそうな話だ。しかし、個人的には、昨年の『Body』における雨風にさらされたようなダビーなテクノのイメージは、言ってみれば、若干、退屈に感じたものだった。 かなりの間、沈黙をまもっていたが、新作「Metal Irene」では、現在、ロンドンを拠点としているFarahの音楽が、これまでの彼が発表してきた音楽を凌駕している瞬間を感じることが出来る。収録されたトラックからは、新たにロウな感覚と変化の兆候を汲み取ることが出来る。とはいえ、最近では、多くのハウスやテクノで、こうした性格は見つけることが出来る。しかし、Farahは自分自身の独特な方法で、そこへアプローチをしかけているのだ。"Cloudy Apple"における重苦しいテクノのグルーヴは、搾り出したようなヒスノイズのレイヤーと、ゲームセンターからサンプリングしたようなサウンドのループによって包囲されており、その結果、威嚇しているかのような空気が生まれている。しかし、注目なのは、こうした空気をテクノ従来のやり方に頼ることなく成立させているということだ。"Speak On The Spotlight"や"Pieced Apart"はさらにディープなトラックとなっている。後者は特に素晴らしく、おぞましいほどのダビーな質感が折り重なることで、トラックを殺伐として奇妙なものへと変容させている。テープがこもったようなシンセ音によるインタールード"Humming"はビートレス・トラックで一息入れているといったところか。しかし、"Lockhead"が本作におけるハイライトだろう。多くの部分では、崩したキックとシンプルでパンチの効いたディレイをループさせているのみだが、4分経つ頃には、そこへ攻撃的で生々しいクラップが加わり、トラックの形を変えていく。非常にタイトでありながらしっかりとしており、無慈悲なまでに効率的だ。どうやら彼が本名からDarlingの部分を除き、Farah名義になったとき、本気になっている印だと気付いておく必要があったようだ。
  • Tracklist
      A1 Cloudy Apple A2 Speak On The Spotlight A3 Humming B1 Lockhead B2 Pieced Apart
RA