Charles Cohen - The Middle Distance

  • Share
  • 今秋Morphine Recordsからリリースされる3枚の回顧的なアルバム、その1枚目となる『The Middle Distance』はCharles Cohenの作品から発掘されたものを収録している。Wire誌10月号にて彼のことが紹介されてはいるものの、フィラデルフィアを拠点に過去40年間、大々的に公共の目に触れることなく活動を続け、セミモジュラーシンセの一種であるBuchla Music Easelを用いて電子音楽を制作してきたCohenだが、彼の音源は今までほぼ未発表のままであった。89年に限定でリリースされたカセットと厳選されたコラボレーションリリース以外で彼の活動を体験することが出来るのはインプロヴィゼーションライブとシアターやギャラリーでのイベントのみである。しかしMorphine Recordsを運営するRabih Beainiにより、膨大な量に及ぶ彼の作品群がリリースされることになった。 収録された作品を聞いてまず気付くのは、70年代後半まで制作時期が遡るにも拘らず、BeainiがMorphosis名義にてリリースする自身の作品と非常に類似している点だ。制作における基礎の部分や鋭利なサウンドテクスチャー、そして密度のあるアナログサウンドなど、2人は同じ価値観を分かち合い、奇怪なジャズファンクフュージョンとワールドミュージックからエッセンスを捻出したものにStockhausenからの影響を添加している。BeainiがCohenのことを知ってから、たった2年しか経っていないという事実を知らなければ、これまでCohenがBeainiに非常に強い影響を与えてきていたのでは、と勘違いすることだろう。 前述の要素が最も色濃く表れているのは1曲目"Club Revival Performance"と好戦的な雰囲気を醸し出す"Camera Dance"だ。Sonomona"と"Dance Of The Spiritcatchers"も同様にネクストレベルのトラックであり、特に後者は先日、Beainiによるリミックスが発表されたばかりだ。重心の座ったリズムと鋭い針の束のように突き刺すメロディはバリのガムラン音楽やコズミッシュ、特にClusterやHans-Joachim Roedeliusを彷彿とさせる。そして最も特徴的かつCohenの音たらしめているのは"The Middle Distance"だ。濃厚なアンビエントが拡散していき、ミュージックコンクレートによるサウンドがひしめき合う中、孤独なピアノ音が立ち上がり、漂い、そして彼方へと消え去っていくこのタイトルトラックにはただただ強く惹きつけられるばかりだ。 近年、リイシュー作品やアーカイブ的なリリースが大量生産されているが、もしこうした作品を通じて電子音楽の歴史をくまなく探求しようとしているならば、Charles Cohenは一聴の価値に値する音楽家である。
  • Tracklist
      01. Club Revival Performance 02. The Middle Distance 03. UTEP1 04. Dance Of The Spiritcatchers 05. Camera Dance 06. Sonomama 07. UTEP2
RA