Native Instruments - Machine Studio / Maschine 2.0

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  • Native Instruments(以下NI)がMaschineの小型版とも言えるMaschine MikroとiOS用アプリiMaschineをリリースしてから2年以上が経過した。これらはMaschineのコアな機能は必要だがミックスやアレンジに対してはそこまでこだわっていないユーザーに新たなデザインと機能をもたらすことになったが、NI側は本家Maschineが制作に必要不可欠なプロデューサーや、そこにより実践的な機能を求めているプロデューサーが存在することにも気が付いていたようだ。そこで今年10月、NIはそのようなユーザーの取り込みを狙い、MaschineをスケールアップさせたフラッグシップモデルMaschine Studioを発表。世間を驚かせた。尚、今回の発表には既存のMaschineユーザーも対象とした、新機能が加わった新しいMaschineソフトウェアも含まれていた。 Maschine StudioはMaschineシリーズの中で初めてAKAI MPC 2000XLのフィーリングを備えることに成功した機材と言える。フロントパネル自体が大きくなり、サイズが大きくなった新しいディスプレイが中央に2面搭載された。ディスプレイはフルカラーのOLEDで表示され、またワークフローに合わせてレイアウトを変更できることが可能になっているおり、他のMaschineシリーズと大きく異なっている。この新しいディスプレイでは、すべてのNIコンテンツが個々のアイコンで表示され、視覚的な区別がつきやすくなっているため、ライブラリのブラウザで特に効果を発揮するはずだ。またMaschine Studioはパターンのアレンジとシーケンスも優れている。左ディスプレイではすべてのシーンとパターンがタイムラインに沿ったオーバービューとして表示され、右ディスプレイにはディテールが表示される。パターン名と色分け表示により、ユーザーはラップトップの画面を見ることなく、操作に専念することが可能になっている。 更にMaschine Studioではミキシングも大きくパワーアップした。これはミキシング時のディスプレイのユーザーインターフェイスが非常に優秀であることが一因となっているが、ディスプレイの右側にマスターセクションが設けられていることも大きな要因となっている。マスターセクションには大型のLEDレベルメーターが配置されており、ボタンひとつでマスター、グループ、そして個々のサウンドのレベルを切り替えて表示することが可能で、そのレベルはメーター下部のノブで簡単に調整することが可能だ。またMaschineの4つのステレオ入力端子に入力されるサウンドのレベルもモニターすることが可能なため、サンプリング時にも役立つだろう。 そして今回追加された大きな機能の最後となるのがエディットセクションで、これはフロントパネルの右下部に位置している。クリック可能なジョグホイールが大きな存在感を放っているが、これはMaschine内で扱っているサウンドのパラメータの数値変更に使用される。パターン内で複数のノートを選択している時に効果が実感できるだろう。エディットセクションはトランスポーズやナッジの他にもヴォリュームやスウィングにも対応しており、更にはグループに適用させることで、面白い結果を生みだすことも可能だ。エディットセクションはライブラリのブラウズからミキシングに至るMaschineのほぼすべてのタスクで非常に効果的だが、それゆえに1点だけ気になる部分があった。それはドキュメント上ではどの状況で何が可能なのかについて細かく説明されていないため、理解するにはある程度プレイする必要があるという点だ。 全体的にはMaschine StudioはMaschineシリーズの大幅なアップグレードモデルだという印象だ。筐体のクオリティも圧巻で、非常にしっかりとした作りになっている。これは他の機材よりも「叩く」作業が増えるドラムパッド系機材にとっては重要なポイントだ。サイズが大きくなったことと、スタンドが備わったことで人間工学上も優れたデザインとなっており、キーボードとマウスの奥に置くには理想的と言えるだろう。一方で、そのサイズの大きさと高価なディスプレイは、堅牢なケースやバッグがない限りツアーに携行することを躊躇させるだろう。 Version 2.0となったMaschineソフトウェアにも大量の新機能が搭載された。オーディオエンジンが組み直され、マルチコアCPU対応となり、オーディオのクオリティも基本的に向上した。その結果、Maschineは今まで以上に動作が軽くなり、処理性能も向上している。尚、NIはVersion 1.0で制限していたセッション内のグループ上限数とプラグインの上限数をVersion 2.0で解除しており、今回のアップデートはベストなタイミングだったと言える。これらの変更が行われたことでMaschineはDAWクラスの柔軟性を得ることになり、またCPUにも余裕が生まれることになった。 筆者が一番楽しめた新機能は、新しいドラムシンセエンジンだ。ドラムシンセはMaschine内にキック、スネア、ハイハット、タム、パーカッションの5つのプラグインとして搭載されている。各ドラムシンセは自由に変更、調整することが可能になっており、例えば、キックはクラシックなアナログキックからアコースティックな響きの生ドラムのエミュレーションまで、8つのサウンドエンジンが組み込まれている。Maschineは基本的にはサンプルプレイバックが機能の中心に据えられているが、サウンドのエディットはかなり細かく行うことが可能だ。唯一の難点はモジュレーションやMaschineサンプラーに付属しているフィルターなど一部の機能がこのサウンドエンジンには搭載されていないという点だろう。しかしながら、これがMaschineにとって大きな追加機能であることに違いはない。 Maschineソフトウェアには他にもここでは書ききれない程の大きな変更が大量に加えられているが、その中で触れておくべきは、サイドチェーンとUndo機能だろう。サイドチェーンはMaschineに内蔵されているコンプレッサー、マキシマイザー、リミッター、ゲート、フィルターに対応しており、簡単にその場でサイドチェーンを行うことが可能で、作業を止めることなくスムースに進めることが可能だ。 次にUndoだが、これまでMaschineに搭載されていたUndoは各ステップにしか適用されなかったため、不満に思っていた人もいるはずだ。複数のノートを間違って入力してしまった場合は、その数だけUndoを押す必要があり、また押す回数を間違えないように注意する必要もあった。しかし、今回のバージョンアップでUndoはStep UndoとTake Undoの2種類が用意された。デフォルトではTake Undoが設定されており、Undoを押せば、それまでの作業をひとつのグループと見なし、全体をキャンセルすることが可能だ。尚、Step Undoへの切り替えはシフトボタンを組み合わせることで行う。ちなみに今回のこの変更により、Maschine MK2の機能名にも変更が加えられ、CompareとSplitはStep UndoとStep Redoに変更された。つまりMaschine 2.0からCompareとSplitは消えてしまったため、これを良く思わないユーザーもいるだろう。ただし、パターンの複製で同じ動作が実行できるため、慣れれば問題ないはずだ。 全体的に言えば両製品共に問題点はないに等しい。MIDI コントロールチェンジ情報の録音と転送が可能になれば、プロダクションセンターとしてMPCに匹敵する存在になるだろうと2010年にオリジナルのMaschineのレビューで書いたが、今回のバージョンアップでもこの点を希望することに変わりはない。またオーディオの扱う作業がもう少し効率的になることにも期待したいが、Maschineを本格的なDAWにしたくないというNIの考えも理解できる。このような希望もあるが、総合的に見てMaschine Studio / Maschine 2.0はパワフルな製品と言える。バージョンアップしたソフトウェアには十分な機能が備わっており、既存のユーザーが簡単にアップグレードを体感でき、StudioはMaschineを使ってみたいという人には非常に魅力的なオプションと言えるだろう。両方とも素晴らしい製品だ。 Ratings: Cost: 4/5 Versatility: 4.5/5 Sound: 5/5 Ease of use: 4/5
RA