Oval - VOA

  • Share
  • グリッチサウンドのパイオニア、OvalことMarkus Poppは90年代中期にMille Plateuxからリリースした『Systemisch』や『94diskont』といったLPで最も知られているが、昨今は全く異なった音へと進もうとしている。2010年の『O』にてOvalの名前を再び世に知らしめ、豊かで煌めく音で満たされたその活き活きとした新たな世界では、ループを基調とする電子音楽の構造以外にも遊び心溢れるフリーインプロヴィゼーションの片鱗を披露してみせた。彼の音楽は前述のレーベルからリリースされた名盤『Clicks & Cuts』でイメージされるような簡素なサウンドでは決してなく、彼の最近の作品ではグリッチサウンドを用いてはいるものの、極端にメロディアスな要素があり牧歌的ですらある。 今年はじめに発表したフリーダウンロードLP『Calidostopia!』においては、Poppはポップミュージックの要素をさらに取り入れ、以前の作品や新作トラックに南アフリカのシンガーを乗せている。その姉妹作となる本作『VOA』はブラジル、サルヴァドール・ダ・バイーアにて『Calidostopia!』同様、10日間のセッションを通じて同様のシンガーを起用し制作されたトラックから選ばれたものだ。しかし、彼が言うには本作は姉妹で言えば姉にあたる作品らしく、その理由は今回はお金を払って購入するものであるということだけではなく、シンガー無しのOvalのみによる新作も数多く含まれているからだ。Poppは本作に収録されているのはセッションから生まれたトラックから選りすぐった「一級品」(すなわち彼のお気に入りとも言える)だと語る。 確かに、1曲目に収録されているAgustín Albrieuをフィーチャーした"Drift"で、本作がマーケット的に異なっている重厚なアルバムだということを示唆している。Albrieuは『Calidostopia!』においておそらく最も輝く存在感を放っており、本作ではもう1曲"Sediment"でも、その声が用いられ、Radiohead的な世界を持った悲しみに満ちたバラードの一旦を担っている。一方、Ovalのソロトラックではダークかつ難解な方向性を示してはいるものの、本作における最も衝撃的な瞬間は他にところにある。 本作はほとんどの点で『Calidostopia!』にとても良く似ているが、こうしたトラックの多くは完成曲からAメロとサビのみを抜き出して、その素材をミニマルに展開させているように聞こえる。前作同様、このアルバムの成功はシンガーによる要素を見事なバランスで取り入れたことと、そのクオリティとに拠るところが大きい。そしてその手腕により、各音を素材として丈夫なタペストリーを編み込んでいる。一方で震えるような瞬間もある。Andrés Gualdrónと共に仕上げた"Credit Line"は点描画法のようであり、人工的な感覚があり、"Hmmm"でのMaité Gadeaの声は背景の音に飲み込まれそうで、まるでサウンドチェック中、何とか声が届くようにもがいているようにさえ聞こえる。しかし対照的にDandaraを迎えた"Stop Motion I"や"Heroic"は特に可愛らしく仕上がったトラックで、こうした差異も上手く機能している。"Oslo"ではドラムサウンドが作り出す激しい雨のようなサウンド中にHana Kobayashiによる可愛いポップな要素が加えられ魅力的な効果をもたらしている。 『VOA』は前作に比べて若干、力強さを感じさせるが、それは大きな前進だとは言えない。しかしながら誰がそんなことを予想できただろうか。たとえそれが驚くようなものでなかったとしても、『Calidostopia!』のように本作には明言出来ない魅力があり、愛らしく包み込んでくるかのようだ。
  • Tracklist
      01. Drift feat. Agustín Albrieu 02. Stop Motion I feat. Dandara 03. -ada 04. Emocor feat. Hana Kobayashi 05. Mersey feat. Aiace 06. -dor 07. Hmmm feat. Maité Gadea 08. Credit Line feat. Andrés Gualdrón 09. -ejo 10. Heroic feat. Dandara 11. Oslo feat. Hana Kobayashi 12. -eza 13. Sediment feat. Agustín Albrieu 14. Flageo feat. Aiace 15. -ismo 16. Latvia feat. Andrés Gualdrón 17. Habitat feat. Maité Gadea 18. -oso
RA