Kerridge - A Fallen Empire

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  • 3枚のEPをリリースしただけにも関わらず、一聴して誰のサウンドか分かる個性を確立しているということは、Sam Kerridgeのサウンドが唯一無二であることの証だ。ドローン、テクノ、インダストリアルの境界で活動するプロデューサーは山ほど居るが、ベルリンを拠点に活動するこの若きイギリス人はその領域を彼のものにしている。抜きん出たトラックの要素はおそらくAndy StottやSunn 0)))、もしくはRaimeを引き合いに出せるものかもしれないが、その詰まるところはユニークだと言う事だ。一般的には、ポストパンクなドラムによる無骨な響きによってイメージが決定しているが、低音による沼のような空間は痛ましいほどの強度を持っており、とても美しい。 Kerridgeの作品はダンスフロアにおける産物だと言える。テクノプロデューサーが巧みな手さばきによってリズムを一変させるように、彼もまたテンションを操り、ジャングルに迷い込んだかのような不安感を煽るサウンドが悪夢のようにこだまする。壮大なリズムが用いられ、真っ暗なクラブで大音量で体験するのがベストではあるが、まとわり付くようなサウンドはダンスさせようとしているわけではない。鋭利なリフとメロディを生み出すためにKerridgeが巧みに用いる要素である渦巻くノイズや焦げ付いた空間を創り上げるディストーション。その中では、ビートは一つの要素でしかない。"Death Is Upon Us"のざらついた世界、トライバルな"Straight To Hell"、もしくは躍動感に溢れる"Heavy Metal"を聞くと、そこで使用されているゆっくりと展開するメロディが巧みに機能していることに気付くだろう。見事に生み出される音の壁がオクターブを駆け巡り、ドゥームメタル的なリフがゆっくりと押し寄せ、意識が飛んで行きそうになる反復パターンが展開する。 人の温もりを受け入れる準備が整っているという点が、Kerridgeと数多の電子ノイズアーティストとを区別する。これは単なる暴力と本能の音楽なのではない。最も残忍な瞬間でさえ、様々な要素が幾重にも張り巡らされており、非常に脆く儚い。絶望に駆られた原始的な嘆きだと言える。"Disgust"は荒れ狂うリズムが特徴的だが、ぶくぶくと溢れ出すサウンドと空から落ちてくるかのようなドローンサウンドが気が狂ってしまうほどに酷使され、ビートはその中へと埋まって行く。ノイズが作り出す恐怖の世界へと崩壊していく"Black Sun"は『A Fallen Empire』全体でそうであるように、得体の知れない何かにとりつかれているかのようだ。真っ向から向き合うというよりも不安に駆られている。このサウンドが生み出す大きな渦の中心には永久の悲しみがある。その中へ全てを委ねることが出来たなら、大いなるカタルシスを得ることが出来るだろう。
  • Tracklist
      01. Chant 02. Black Sun 03. Death Is Upon Us 04. Straight To Hell 05. Scare Tactics 06. Heavy Metal 07. Disgust
RA