Trentemøller - Lost

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  • 2010年にリリースされた Into The Great Wide Yonderは、壮大な映画の世界を描いたようなアルバムで、Anders Trentemøllerがコペンハーゲンからハリウッドに引っ越したのではと疑ってもおかしくない内容であった。今回のアルバム Lostでは、その正反対の方向へ向かっている。いくつかの曲は、Paul Thomas Andersonの映画や、Breaking Badのエピソードで使用されそうな曲もあるが、ほとんどの曲はゲストボーカルである Low、The DrumsのJonny Pierce、RaveonettesのSune Wagnerを前面に押し出した歌モノであることが特徴的である。ゲストボーカル達のサポートを受けて、Trentemøllerがミックス・アルバム Harbour Boat Tripsで選曲したネオ・フォークサウンド ~ モダン・インディー・ロック ~ ニューウェイブの影響を醸し出しつつ、ミニマル・テクノの傑作The Last Resortを生み出した男の哀愁漂うエレクトロ二カが波のように引いては寄せる作品だ。 ワイルドでドラマティック、そして1時間に及ぶ12曲のアルバムではTrentemøller が夢見心地な世界へ誘ってくれる。スロウコアなオープニング曲 "The Dream"、前のめりなエレクトロ・ロック"River of Life"、そしていくつかのクラフトロックの終わりなき旅。グラム・ロックのリズムで始まる"Trails"では、最終的にJames Holdenの複雑なリズムと、Gui Borattoの光沢のあるトランスを結合したような展開を遂げる。異なる3種の音色を織り交ぜるために無数のアイディアを熟考するTrentemøllerらしさが現れている曲と言えるだろう。 Lost は広大でかつ優等生であるが故に、少なくても最初のうちはわかりやすい作品だと感じるだろう。そこには眩惑的なテクニックが無数に介在している。The Door'sのRay ManzarekとNeu!が、ヒンズー・ラガの解釈でジャムしているような"Constantinople"や、Mercury Revのほろ苦いサイケデリック感を電子音楽で表現した"Gravity"など。凄まじいイマジネーションが生み出した演奏にもかかわらず、何かがそこにあるように思わせ、聴衆を惹き付ける手腕を発揮している。そういった意味でもLostはインテリジェントなレコードだ。しかし良くも悪くもまとまりがない。それは最も重要な事で、Trentemøller が彼自身を制御したシンプルな曲を聴衆は求めているではないだろうか。Sune Wangerをフューチャーした、戯れたエレクトロ・トラックの"Deceive"や、Johnny Pierceをフューチャーした非の打ち所のないポップソング "Never Stop"が、このアルバムのベストソングだろう。しかし、今までにTrentemøllerがわかり易い直球のアルバムを作った事があっただろうか?
  • Tracklist
      01. The Dream feat. Low 02. Gravity feat. Jana Hunter 03. Still On Fire 04. Candy Tongue feat. Marie Fisker 05. Trails 06. Never Stop Running feat. Jonny Pierce of The Drums 07. River Of Life feat. Ghost Society 08. Morphine 09. Come Undone feat. Kazu Makino 10. Deceive feat. Sune Rose Wagner 11. Constantinople 12. Hazed
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